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有川ひろさんの最新作。読者より募集した 「物語の種」から生まれた10の物語とは?

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ゆうゆう編集部

種から生まれた物語で宝塚に「沼落ち」する

「種選びの基準のようなものは、特にないんです。種そのものが印象深いとか、よくできているとかではなく、そこから場面やストーリー、人物が浮かぶかどうかで決めました」

有川さんの目に留まった種の一つに、「胡瓜と白菜どっちが好き?」という短い質問文があった。見た瞬間、小説の最初の数行が浮かんだ。物語が動きだすと、以前書いた『ゆず、香る』という小説の主人公の姿が見えてきたという。

「その種から『胡瓜と白菜、柚子を一添え』という短編を書いたのですが、それは『ゆず、香る』の後日談になりました。この種をもらわなかったら続きを書こうなんて思いもしなかった。読者さんからのプレゼントですよね。ほかにもたくさん贈り物をいただいたと思っています」

なかには有川さんが「私の人生にとってエポックメイキング」と言い切るほどの種もあった。それが「Mr. ブルー」という短編だ。

「種そのものは『リモート会議でいい感じの物語を。』というものだったのですが、『リモート会議の画面の中に、宝塚のポスターが見切れていたら面白いな』とひらめいてしまったんです」

それまで宝塚をみたことがなかった有川さんは、「重度のファン」として知られる編集者に宝塚の基礎知識を聞いた。数日後、厳選された名作舞台のDVDが、詳しい解説つきで送られてきた。初めてみる宝塚は、あまりに面白すぎた。

「彼はこれを機に私を『沼』に引きずり込もうとしていたので、最高の舞台の連打なわけです。隣でみている夫までハマってしまって。おかげさまで、夫婦で一生楽しめる趣味を手に入れました(笑)」

そのせいか、本書には宝塚がらみの短編が3篇登場する。そこに有川さんの思いがギュッと詰まっていて、宝塚に興味がない人にも「みてみようかな」と思わせる。

「宝塚でなくてもいいのですが、何かつらいことがあったとき、好きなものって命綱になると思うんです。趣味や推しをたくさんもっているのは、命綱を何本もつけているのと一緒。好きなものをたくさんつくりましょう」

勝手に話す登場人物、私はそれを書き留めている

有川さんの小説も、多くのファンの命綱になっているはずだ。何せ有川さんは「胸キュン」の女王。『図書館戦争』しかり『阪急電車』しかり。宝塚同様、年齢を問わずトキメキをくれる作品ばかりだ。

そんな物語づくりの秘訣は?と伺うと、「キャラクターが勝手に動いて話しているのを脇から見て、それを書いているだけ」と、意外な答えが返ってきた。

「登場人物はひとりひとり人格があって、紙の上ですけれど生きています。彼らは勝手に話し始めるし、勝手に動いて日常生活を見せてくれる。映画監督さんがカメラで人物を追いかけるように、私はキーボードを打つことで追いかける。口述筆記しているようなものです」

だからこそ、小説の登場人物たちはイキイキしている。コロナ禍にあっても明るく強い。

「それは読者さんの種のおかげ。つらい状況の中でも日々の楽しみを見つけたいと思っている人が集まって作ったんですから、楽しくないはずがないですよ。私もこの本に背中を押されています」

PROFILE
有川ひろ

ありかわ・ひろ●高知県生まれ。
2004年『塩の街』で電撃小説大賞〈大賞〉を受賞しデビュー。
「図書館戦争」「三匹のおっさん」シリーズをはじめ、『阪急電車』『植物図鑑』『空飛ぶ広報室』『明日の子供たち』『旅猫リポート』『みとりねこ』、エッセイ『倒れるときは前のめり』など著書多数。

※この記事は「ゆうゆう」2023年9月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。


取材・文/神 素子

ゆうゆう2023年9月号

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