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吉田秋生の漫画『夢みる頃をすぎても』を久しぶりに読んでみた。歳を重ねて見える景色もまた、味わいがある

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Anmitu

居酒屋を出て酔い覚ましに「サ店」でお茶する3人。その後雪が降るなか、黄菜子は迎えに来た彼、恭一と去り、あらためて「……いいな――」と見送る空子と今日子。
そんなシーンにかぶさるように

「わたし ずっと
夢見ていた

きゃしゃな
ガラスの靴をはき
軽いステップ
誰かと踊る夢

十二時の鐘で目をさまし
いそいで階段を
かけおりなきゃならない
時が来るなんて
あの頃は夢にも
思っていなかった

みんなガラスの靴をはき
あやういステップを
ふんでいる

ほんの小さなターンのミスで
すぐにくだけて
しまうから

だからどうぞ
やさしくして

踊りましょう
軽やかに
やさしくわたしの
手をとって
夢みるような
ナンバーへ」
という文章が流れて物語は終わる。

最終学年を迎える春間近、21歳の冬の一日。

実はこの物語は、黄菜子・恭一シリーズと呼ばれる5つの短編からなる。1977、79年『楽園のこちらがわ』『楽園のまん中で』では大学受験という現実に対する葛藤や新たな仲間たち5人の友情、80年『はるかな天使たちの群れ パート1』『はるかな天使たちの群れ パート2』では高校生から大学生、浪人生となった5人たちのその後(すべて別冊少女コミック/小学館)が描かれている。そして、さらに二年を経た物語が本作になる。同じ時系列で走り語る『ラヴァーズ・キス』とは異なり、掲載間隔に開きのあるこのシリーズでは、作中のキャラクターはリアルタイムで歳を重ねていく。

歳を重ねれば、体力も気力も「若さ」を基準にすれば衰えている事実はいなめない。でも、重ねてきた失敗や葛藤が「もう、無理に急がなくてもいいよ」と教えてくれる。

もう「自分らしさ」にこだわり、もがかなくてもいい。人生には様々な陰影に富んだグラデーションがあることを少しずつ学んでいけばいい、と知っているから。その時々の自分の価値観に素直でいい、と気づいたから。おつりがもらえるくらいに、十分に「夢みる頃」をすぎて見える景色、味わいもあるに違いない。

ところで、わが家の書棚には「吉田文庫」ゾーンなるものが存在していたのだが、その一画がごっそりと無くなっていることが、この度判明した。誰かに貸して、戻ってきていないことに気づいたのだが、仕方がない。

そして思いついた。今も『月刊フラワーズ』で連載中の同世代『吉田秋生新文庫』を増設しようと。楽しい今日この頃だ。

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