ヤマザキマリさん「イタリアでは、女性は50代以降になってからが魅力的」という理由は?
年をとるということを、みなさんはどうとらえているでしょう。年をとるのはいやなこと——と、否定的に考えがちですが、それは違うのかもしれません。「女性は50代以降が魅力的」というヤマザキマリさんの話題の新刊『CARPE DIEM 今この瞬間を生きて』から、ヤマザキさん流、老いと死の向き合い方をご紹介しましょう。
50代が面白い
女性は若い時より50代以降になってからが俄然魅力的。イタリアの舅(しゅうと)や彼の友人達はよくそんな事を言っています。女性の50代と言えば、子育てもある程度落ち着き、仕事をしている人であれば紆余曲折を経つつもキャリアを積み、カップルとしての生活を一通り経験した後、自立を求めて離婚する人もいるでしょう。
そうした経験を積んだ相手とは、若い頃の燃え上がるような恋愛感情とは趣が異なるものの、成熟した人間同士として、お互いの経験値から導き出される実感のこもった言葉や人生観を交わすことができるようにもなるものです。
人間として様々な経験をしてきた人と話したい、面白い会話を構築したい。そんな願望が芽生え、相手が積み重ねてきた時間に想像力を稼働させながら、「女」としてではなく、人生をそこまで生き抜いてきた「人間」として接触してみたい、という気にさせられるのかもしれません。
たとえ相手が自分の知らない世界に身を置き、異なる分野の知識を携えていたとしても、それを面白がり、リスペクトできる。考え方や生き方の方向性が違ったり、エンパシーを得られなくても、相手のつくり上げてきたその人なりの世界観を受け入れる。成熟した男女はそうした互いの人間としての経験に敬いを覚えるところから、関係性を築いていくように思えます。
分かりやすい具体例を上げましょう。例えばイタリアでは、車は新車より中古車が好きだという人が大勢います。夫は絶対に新車を買いませんし、彼の父親もまた、ドイツ製やオーストリア製の中古車を好んで集めています。お金がないわけではないのに、頑なに新車を買おうとしないのはなぜなのかと夫に聞いてみたところ、あなた色に染まります、という姿勢丸出しの新車はつまらないのだそう。
それに比べて、かつてハンドルを握っていた人間のクセがついていた車の方がいいのだそうです。「中古車はそれぞれ独特な性格を帯びているところが面白いんだよ。メンテナンスに時間も費用も掛かるけど、そういう行為にこそ愛着が増していく」などとうんちくを述べつつ、今も20年前のアルファロメオを大切に乗り続けています。
よく車の選び方でその人の異性の趣味が分かる、などといいますが、中古車好きが多いイタリアにおいては、日本の男性が女性に求めているような透明感や純粋さ、というのはそれほど重要ではないということなのかもしれません。