【光る君へ】藤原道長(柄本佑)は権力の階段を上り詰めたものの、心休まる相手は紫式部(吉高由里子)のみ…ドラマはいよいよクライマックスへ
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志賀佳織
2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」。『源氏物語』の作者・紫式部のベールに包まれた生涯を、人気脚本家・大石静がどう描くのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第43回 「輝きののちに」と第44回「望月の夜」です。
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2024年NHK大河ドラマ「光る君へ」レビュー
まひろ(紫式部/吉高由里子)とのはるか昔の約束を叶えるために、権力の階段を上り詰めた左大臣・藤原道長(柄本佑)から、世の中はしだいにその子どもたちの代へと移り進んできた。それとともに、父による政略結婚の犠牲となった娘たちや子どもの誕生を迫られる息子たちからは、父に対する反発、反感が芽生えてくる。
かつてまひろとのことで悩み、父・藤原兼家の強引な政の進め方に反発した道長も、その志の奥にあるものは昔と変わらないはずが、傍目には権力に執着する人間に映ってしまうのだった。第43回、第44回は、そんな道長の心の動きと周囲との乖離が一層伝わってくる回となった。
父・道長により、年の離れた三条天皇(木村達成)に無理やり入内させられた中宮・藤原妍子(きよこ/倉沢杏菜)だったが、長和三(1014)年、姫皇子・禎子(よしこ)を産んだ。皇子を望んだ道長の思惑は外れた形となった。
さらに内裏は火災に見舞われ、三条天皇は妍子ともに枇杷(びわ)殿に移り、枇杷殿の藤原彰子(あきこ/見上愛)は弟・藤原頼通(よりみち/渡邊圭祐)の屋敷である高倉殿に移った。高倉殿には敦康(あつやす)親王(片岡千之助)とその妻・祇子(のりこ/稲川美紅)も暮らしており、彰子は久しぶりに敦康と再会することができた。
一方、道長は藤原道綱(みちつな/上地雄輔)とともに枇杷殿に三条天皇を訪ね、こう進言する。「おそれながら、二度にわたる内裏の火事は、天がお上の政にお怒りである証しと存じます」。「聞こえぬ」と返す天皇に、声を大きくしてさらに道長はこう続ける。「この上は、国家安寧、四海平安のため、何卒ご譲位あそばされたく、臣道長、伏してお願い申し上げまする」と正面から譲位を迫って道綱を驚かせたのだ。三条天皇は憤り、二人を下がらせる。
そんな政の騒ぎの最中も、まひろは再び筆をとり、光る君亡きあとの物語を書き進めていた。
その後も、三条天皇の健康状態はおぼつかない。御簾越しに道長が声をかけても、「声が小さい」と不満を口にしたり、「今日は暗いな」と御簾を上げさせたりする。するとそこには文書を逆さまに持ち、読むふりをしている天皇の姿があった。
道長は四納言を集めて、三条天皇の健康状態を伝える。「このままでは帝としてのお務めは果たせない」とし、源俊賢(としかた/本田大輔)は、道長の意図を察し、内裏に譲位の機運が高まるように働きかけていくと口にするが、藤原行成(ゆきなり/渡辺大知)だけは、懊悩の表情を浮かべていた。
その後、行成が道長を訪ねてきて、太宰府に赴任したいと申し出る。常に自身の忠臣であった行成の突然の申し出に当惑する道長だったが、「今の帝がご即位になって三年、私はかつてのように、道長様のお役に立てておりませぬ」と言われて「考えておく」と言うしかなかった。
敦康親王は久しぶりに彰子と向き合い穏やかな時を持てていた。「皇太后様はお変わりになりましたね」「今の皇太后様は国母にふさわしい風格をお持ちでございます」。道長の強引なやり方の、ある意味犠牲となった二人だったが、時を経て、再びよい関係になれた姿がそこにはあった。確かに、この数回にわたる彰子の変化を、見上愛が非常に巧みに演じている。線の細い自信のない少女の姿から国母に目覚ましく変化していく姿は、どこか頼もしく、清々しくさえある。その演技力、存在感には目を見張るものがある。
三条天皇は、道長から譲位を迫られたことを藤原実資(さねすけ/秋山竜次)に伝えると、信頼できる蔵人頭(くろうどのとう)を置くように助言される。そして、天皇は、実資の子・藤原資平(すけひら)を蔵人頭にしたいと道長に告げる。しかし、道長は資平に蔵人の経験すらないことを憂慮して反対する。
天皇は憤りその場を立ち去ろうとしたところ、柱にぶつかって倒れてしまう。「お上、お目も見えず、お耳も聞こえねば、帝のお務めは果たせませぬ。ご譲位くださいませ。それが国家のためにございます」。しかし、天皇は猛反発する。「譲位はせぬ! そんなに朕を信用できぬなら、そなたが朕の目と耳になれ。それならば文句はなかろう」
まひろは7歳の東宮・敦成(あつひら)親王(石塚錬)に漢字の教育を施している。その場に道長が現れ、もっとよい博士について学問を学び、帝たるべき道を歩むことをすすめる。
彰子は三条天皇に譲位を迫っている父の様子を憂えて、まひろに相談する。しかし、まひろはこう返す。「人の上に立つ者は、限りなくつらく、寂しいと思います」。「たとえ左大臣様でも皆をないがしろにして事を進めることはおできにならぬと存じます。なぜなら左大臣様は陣定に自らお出ましになることを望まれ、長年、関白をご辞退されてきたと伺います。たった一人で何もかも手に入れたいとお思いとは到底思えませぬ」
三条天皇は道長が自分を脅していると実資に訴える。そして自分を守ってくれと頼む。実資は道長のもとを訪れる。この場面の実資と道長のやりとりは、道長の本意とそれを理解できずに周囲がどう捉えているかを如実に表していて、非常に見応えがあるところだ。台詞にも緊張感が漂う。実資はまず、このまま天皇に譲位を迫り、責め立てれば、天皇の心も体も弱るであろう。それが正しいやり方とは思えないと忠告する。そしてこうも言う。「このまま己を通せば、皆の心は離れます」
しかし、道長の反発も激しい。「離れるとは思わぬ。私は間違ってはおらぬゆえ」。「幼い東宮を即位させ、政を思うがままになされようとしていることは誰の目にも明らか」。「左大臣になってかれこれ20年。思いのままの政などしたことがない。したくともできぬ。全くできぬ」「左大臣の思う政とは何でありますか。思うがままの政とは」「民が幸せに暮らせる世を作ることだ」「民の幸せとは。そもそも左大臣殿に民の顔なぞ見えておられるのか。幸せなどという曖昧なものを追い求めることが我々の仕事ではございませぬ。朝廷の仕事は、何か起きたとき、まっとうな判断ができるように構えておくことでございます」「志を持つことで私は私を支えてきたのだ」「志を追いかける者が力を持つと、志そのものが変わっていく。それが世のならいにございます」
宋(そう)から取り寄せた薬を服用する三条天皇のもとを、皇后・藤原娍子(すけこ/朝倉あき)と息子の敦明親王(あつあきら/阿佐辰美)が訪れる。敦明親王は、自分の友である藤原兼綱(かねつな)を蔵人頭にしてほしいと願い出る。天皇はこれを受け入れ、約束を反故にされた実資はひどく立腹した。
土御門殿に道長と妻・源倫子(ともこ/黒木華)、頼通と妻・隆姫(たかひめ/田中日奈子)、藤原教通(のりみち/姫小松柾)と妻・頼子(よりこ/近藤幼菜)が集まり、宴を開いた。教通夫妻には赤ん坊が生まれたばかりだったが、頼通夫妻にはまだ子がない。道長は隆姫に「ぜひ頼通の子を産んでほしい」と正面切って告げるが、それに対し、頼通が怒る。倫子からもほかにも妻を持つことをすすめられると、頼通はその場を立ち去った。
ここからの倫子の覚悟がすごい。一人の女として道長に愛されていないことに苦しんだこともあったが、今はそのようなことはどうでもよいと思っていると述べ始め、「彰子が皇子を産み、その子が東宮となり、帝になるやもしれぬのでごさいますよ。私の悩みなど吹き飛ぶくらいのことを殿がしてくださった」と、堂々と言ってのけたのだ。
ある意味、道長よりもずっと権力志向が強く、ついにその境地に至ったのかと肝っ玉の座りぶりに驚かされた。倫子という人物を妻にしたことが、経済的な面でも、こうした精神的な面でも道長を支えたことは間違いないと確信できる場面でもあった。
まひろの家では、父・藤原為時(ためとき/岸谷五朗)が越後守の任を終えて戻って来る。娘・藤原賢子(かたこ/南沙良)と双寿丸(そうじゅまる/伊藤健太郎)の仲むつまじい様子に「時代は変わった」と感慨深い様子だ。その双寿丸は、太宰府に行くと賢子に告げる。ついていきたいという賢子に、「お前は都でよい婿をとって暮らせ」とつれない。賢子の恋は失恋に終わってしまった。
そんな折、藤原隆家(たかいえ/竜星涼)が狩りで傷つけた目の病を治しに、よい医師のいる太宰府に行きたいと申し出て、道長はそれを受け入れる。先に願い出ていた行成は強い不満をぶつけるが、道長はこう述べる。「行成は俺のそばにいろ、そういうことだ」。ここにもまた道長の意思とそれを理解できない周囲との軋轢が生まれているのだった。