読みだしたら止まらない! 山本一力さんが初めて挑んだ新感覚の「中国時代小説」
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ゆうゆう編集部
何千年も前から続く中国の桁違いの歴史に感動
この作品の執筆に当たっては、もう一つ運命的な縁があった。
物語の主人公・丁仁は実在した人物なのだが、山本さんが報道番組の出演を通じて知り合ったテレビ局の方が、丁仁から数えて四代後の子孫だったのだ。
「前からそのことは聞いていたのに、僕がちゃんと理解していなかったんです。今回、中国ものを書くに当たって、その背景などを理解するための勉強会がありました。駒澤大学の考古学の准教授、角道亮介さんが指導に来てくださったんです。その勉強会に、あるとき丁仁の子孫であるその方にも加わってもらったら、話を聞いて角道さんがもう驚いてしまってね(笑)」
丁仁は、光緒30(1904)年、同じく金石学の研究をする篆刻(てんこく)家の仲間3人と、篆刻の学術団体「西泠印社」を設立した。今も存在するその場所に、山本さんも取材に行った。
「子孫の方から丁仁さんについては聞いていたけれど、実際に行ってみて初めてわかったこともある。篆刻の源に近いものが、殷(いん)の時代の甲骨文字だということも知った。何千年も前から続く中国の桁違いの歴史や文化に圧倒されました」
そして、丁仁や金石学について、物語を紡いでいくことになる。
「勉強会や現地取材で学んだことを源に、空想を膨らませました。実生活では難しくても、小説の中でならできることがいろいろあります」
その時代の風景、生活の背景……。山本さんの描く日常はいつも細やかだ。おかげでその世界にすっと入れて、同じ時を生きているような感覚になってくる。アメリカの通販カタログやKODAK社の新型カメラのことなど、興味深いエピソードも盛りだくさん。
そして後半、物語はガラリと趣が変わって幻想的になる。そのスケール感にも乞うご期待だ。
現在75歳。ますます健筆を振るう山本さん。妻のすすめで、毎晩3キロのウォーキングをし、その途中でラジオ体操、月に2回ホットヨガへ行くなど、健康管理にも余念がない。
「物を書くには気力がいるし、気力は体から生まれます。今回のことで、いくつになっても、いろんなことを学べるものだと改めて思いました。中国史も、本書をきっかけに興味をもっていただけたら嬉しいですね」
PROFILE
山本一力
やまもと・いちりき●1948年高知県生まれ。
旅行代理店、広告制作会社、コピーライター、航空会社関連の商社勤務などを経て、97年「蒼龍」で第77回オール讀物新人賞を受賞。2002年『あかね空』で第126回直木賞を受賞。
「ジョン・マン」シリーズ、「損料屋喜八郎始末控え」シリーズなど著書多数。
※この記事は「ゆうゆう」2023年11月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。
取材・文/志賀佳織 撮影/富本真之
ゆうゆう2023年11月号
「健康寿命を延ばす食事と暮らし」を大特集。おしゃれなライフスタイルを発信している柏木由紀子さんと、健康長寿のコツは「3つのショク(食・職・触)」という樋口恵子さんにお話を伺いました。さらに、「ポスト更年期」の女性の体とのつき合い方、体と頭を強くする食事術、健康寿命を延ばす歩き方について、専門家がアドバイスをいたします。いつまでも健やかに暮らすためには、正しい知識と日々の積み重ねが何より大事。「そのうち」ではなく、今日から! この特集をお役立てください。
もう一つの注目企画は「やめて、手放して、ラクに生きる!」。これからの日々を軽やかに有意義に過ごすために、手放す極意をお教えします。
お話を伺ったのは、断捨離提唱者のやましたひでこさん、生活評論家の沖 幸子さん、精神科医のTomyさん。Tomyさんはおっしゃいます「本当に大切なもの以外はなくていい。手放せば手放すほど、心はラクになっていく」と。何を手放し、何を残すか。イメージトレーニングしてみるのもいいですね。