親の老後資金と介護費用の実情・50代からやるべき4つの対策
お金の負担に備える
高額療養費
1カ月あたりの医療費が一定額を超えると、超えた分が健康保険から還付される制度。上限額は、年齢や所得によって異なります。
例)70歳以上、年収370万円未満の場合の1カ月の負担の上限
外来…1万8000円(年間上限14.4万円)
入院…5万7600円
上限を超えた額が、あとから払い戻されます。
申請は、健康保険の窓口(国民健康保険では市区町村の窓口)。
入院が決まっているときは、あらかじめ「限度額適用認定証」を申請しましょう。医療機関の窓口で認定証を提出すれば、請求されるのは上限額だけですみます。また、マイナンバーが利用できる医療機関なら、認定証がなくても、限度額を超える支払いはありません。
高額介護サービス費
1カ月あたりの介護保険のサービス利用料が上限を超えると、超えた分が還付される制度。上限額は、同じ世帯の人の収入によって異なります。
例)夫婦2人暮らしで、2人とも70歳以上、住民税非課税…上限は2万4600円
高額医療・高額介護合算療養費
1年間にかかった医療費と介護サービス費を足した額が一定額を超えると、超えた分が還付される制度。高額医療費と高額介護サービス費は1カ月ごとの費用がおさえられますが、これらの制度を利用しても年間の医療費と介護費の負担が大きいとき、年間の費用をおさえてくれます。
例)70歳以上で、課税所得145万円未満…上限は年間56万円
制度を活用して、介護離職はしない
厚生労働省の雇用動向調査によると、2020年に介護離職をした人は約7.1万人。そのうち、男性は約1.8万人、女性は約5.3万人と、女性の方が多くなっています。年代別にみると、男性は「65歳以上」、女性は「55~59歳」が最多です。
親の介護をきっかけに60歳の定年前に離職する人もいますが、人生100年の時代、親を看取ってからも40年、人によっては50年ほどの長い老後が待っています。再就職先が見つからないと、老後破綻に陥る可能性もあるので、慎重になりましょう。
介護をしながら60歳の定年退職を迎え、その後も65歳まで再雇用で働き続けて、自分の老後を守ってほしいと思います。
そのために役立つのが、以下の2つの制度です。
介護休業制度
小さい子どもを育てている人が育児休業がとれるのと同じように、要介護状態の家族を介護している人は介護休業がとれます。
注意したいのは、ここでいう要介護状態は、介護保険制度の要介護状態と同一ではないこと。要介護認定を受けられなかったり、要支援の場合でも、「ケガや病気などで2週間以上常時介護を必要とする」なら、介護休業を申請できます。
対象となる家族の範囲は、配偶者(内縁を含む)、父母、祖父母、子、孫、兄弟姉妹、配偶者の父母。休業期間は、対象家族一人につき、3回を上限として、通算93日まで。つまり、必要に応じて、3回にわけて休業が可能です。
介護休業中、雇用保険の被保険者は、原則「介護休業給付金」が受給できます。給付額は、原則として、休業開始前の給与水準の67%(休業中に給与が出ない場合)。
取得できるのは、対象となる家族を介護する労働者です(日々雇用の人は除く)。
介護休暇制度
通院の付き添いや、介護サービスを受けるための手続き、ケアマネとの打ち合わせなどは、平日に行うことがほとんど。そんなとき、時間単位でとれるのが「介護休暇」です。
介護を必要とする家族が1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日を限度として、取得が可能。休暇中の賃金の有無は、勤務先によって異なります。
対象となる家族は、介護休業と同じく、配偶者(内縁を含む)、父母、祖父母、子、孫、兄弟姉妹、配偶者の父母。
雇用期間が6カ月未満だったり、日々雇用の人などは取得できません。
ほかにも、介護者が申し出た場合には、会社側は深夜(午後10時~午前5時)に労働をさせてはいけない、所定労働時間を越えて労働させてはいけない、などの規則もあります。
困ったときは、地域包括支援センターや担当のケアマネジャーなどに相談しながら、制度を生かして仕事と両立させていきましょう。
ワンポイント!「介護割引」やマイレージを貯めて、航空料金の負担を軽減
実家が遠い場合、飛行機での往復は料金が負担になりがち。各航空会社(日本航空、全日空、スタフライヤーなど)では、介護のための帰省などに、航空料金の割引が受けられます。
割引率は、日本航空の例で、各種チケットから10%割引。早期割引や往復割引などのチケットと組み合わせて使えます。ほかに、航空会社や便、チケットの種類で割引率が変わる航空会社も。自分がよく使う路線で、有利なものを選ぶといいでしょう。
適用されるのは、要介護または要支援と認定された2親等以内の親族などを介護する場合。条件は、マイレージクラブの会員であることなど。申請には、介護保険被保険者証、戸籍謄本または戸籍抄本などが必要です。
また、飛行機に乗るたびマイレージを貯めて、無料の特典航空券を利用するのもおすすめ。クレジットカードを搭載したカードなら、光熱費や通信費の引き落とし、ふだんの買い物の決済などでもマイルが貯まります。
詳細は、各航空会社のホームページで確認を。
プロフィール
井戸美枝
いど・みえ●ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、社会保険労務士、国民年金基金連合会理事。生活に身近な経済問題、年金・社会保障問題が専門。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに、雑誌や新聞に連載を持つ。近著に『フリーランス大全』(エクスナレッジ)。『親の終活 夫婦の老活 インフレに負けない「安心家計術」』(朝日新書)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!増補改訂版』(日経BP)など著書多数。
ホームページ:http://mie-ido.com
Twitter:@mieido
※この記事は2024年9月9日に文章構成を変更しました。
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