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名言、再び。【あんぱん】の伯父(竹野内豊)が低音で放つ、沁みる一言とは?

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田幸和歌子

名言、再び。【あんぱん】の伯父(竹野内豊)が低音で放つ、沁みる一言とは?

「あんぱん」第24回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

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北村匠海の繊細な演技が孤独を浮かび上がらせる【あんぱん】母への思い以外の「生きるよろこび」に出会えるだろうか

物々しい時代の気配が忍び寄ってくる

今田美桜主演のNHK連続テレビ小説『あんぱん』の第5週「人生は喜ばせごっこ」が放送された。

今田美桜が演じるのぶは、『アンパンマン』原作者で漫画家のやなせたかしの妻・小松暢をモデルにしたものだ。第1話の冒頭でも晩年の幸せそうな夫婦の様子が描かれており、それはこのドラマの視聴者すべてが知っているはずだ。

しかし、小松暢という女性がどのような人物でどのような人生を送ったかということは、多くの視聴者は知らないであろう。だがのぶは、「のちのやなせ先生の妻となる女性」であることはみんな知っている。つまり、北村匠海演じる、やなせたかしをモデルとした嵩との仲がどう育まれていくのかということを見守るような視点は前提としてあるうえに、史実と違い嵩とのぶは幼なじみと設定されていることも、テレビドラマとして有効なアレンジであろう。

前週で、のぶは女子師範学校に合格、嵩は浪人生活が始まるという、明暗くっきりな進路となった。ストーリーはそれぞれが歩む学生生活が、二本柱のように並行して描かれる構成となっていく。

まず、のぶの女子師範学校パートであるが、入学にあたり寮に入り、厳しく生徒たちを指導する黒井雪子(瀧内公美)のもと、幼馴染のうさ子(志田彩良)らとともに前向きに学び成長していく様子が描かれる。朝ドラに限らず馴染みあるシチュエーションである。冒頭に記したようにその人生を「知らない」ゆえに、フラットな気持ちで見ることができることは、シンプルにヒロインの成長を楽しむことができる展開だ。

「あんぱん」第22回より(C)NHK

黒井は、うさ子を「ボウフラより弱い」と言う。きつい言い方であるが、これは黒井の「正義」に基づく発言だ。そこに触発され、黒井のような強い女性になりたいという信念のもと、なぎなたの稽古に励み、やがてのぶをなぎなたの試合で負かしてしまうほどに成長する。うさ子に負けたのぶに、「信念のない己に、負けたのです」と黒井は説く。

平和なようでありながら、物々しい時代の気配は忍び寄っている。「愛する祖国」を守るため、全身全霊で尽くす心を持たなければならないと黒井はのぶたち生徒に言う。正義とは簡単にひっくり返るものだということも、このドラマの根底に流れる大きなテーマである。この先、日本が包まれ流されていく「時代の正義」のようなものに、のぶや嵩は直面し、悩み、考えていくのではないだろうか。

蘭子パートは悲恋モノのメロドラマのようだ

嵩はといえば、浪人生活を過ごすなかで本当にやりたいこと、絵を描いて生きていきたいという本心を、弟の千尋(中沢元紀)にぶつけ、美術学校への道を選択する。千尋もまた、父の職業である医師への道を選ばず法の道を目指す。自分の将来への意思を尊重して後押しをしてくれるという嵩の伯父であり千尋の父である寛(竹野内豊)は、作品の時代を考えると実に進歩的な考えを持った存在だろう。「何のために生まれて、何のために生きるか」、常にそう言い続けているだけのことはある。

美術学校も一校は落ちてしまったものの、より難関の東京高等芸術学校に見事に合格する。次週では、今週の女子師範学校でののぶのように、芸術学校で学ぶ嵩の様子も並行して描かれていくのだろう。のぶと嵩、2本の並行する学生生活の流れをどう見せてくれ、それぞれのストーリーが完全に分離せず二人の接点をどう見せてくれるのか、その構成は楽しみにしたいところである。

「あんぱん」第21回より(C)NHK

この、2本の明るい青春学園生活のような流れだけでなく、さらに登場人物の生き方が描かれていくのが現時点での見どころのひとつだ。

この週では、のぶの妹で朝田家の次女、蘭子(河合優実)の縁談にもスポットが当てられた。蘭子は、自分の好きな道を選べたのぶや嵩と対照的に、進学せず郵便局で働く道を選んだ。そんな蘭子に、のぶたちの同級生のいじめっ子・岩男(濱尾ノリタカ)が結婚を申し込んできた。

蘭子は朝田家で働く職人の豪(細田佳央太)に密かに思いを寄せるが、この縁談に対して豪は「ええ話やと思います」と言ってしまう。そんな豪も、蘭子のことは本心では気になる存在だ。しかし、自分の立場を考えるとそれは叶わぬ望みである、そう考えたのであろう。令和の今とは異なる「家」「身分」といったものが、自分の気持ちよりもはるかに大きく尊重されてきた時代らしい恋模様である。

厳しくありつつも明るい青春学園モノのようなノリののぶと嵩パートに対して、蘭子パートの悲恋モノのメロドラマのような雰囲気は異質な存在である。しかし、のぶと嵩にしたって、好きな道を歩くなりの悩みや困難はある。特に嵩は自分が一人ぼっちの存在であるかもしれないということも含め、これまでずっと悩みを抱えながら漫画、そしてのぶに救われてきた道のりだった。

それぞれの悩みを別の形で描き、ひとつの箱に詰め込んで届けてくれる、そこは脚本を担当する中園ミホの力量に他ならないのではないだろうか。それぞれの青春の悩みが描かれる中での屋村(阿部サダヲ)や〝釜じい〟釜次(吉田鋼太郎)がコメディリリーフ的に配置されることもまた、もやもやした青春ドラマにならない重要なポイントだと言っていいだろう。

「あんぱん」第24回より(C)NHK

さて無事芸術学校に合格した嵩に、寛はあらためて「何のために生まれて、何のために生きるか」と言う。
「それは、人を喜ばせることや」

寛自身、嵩の喜ぶ顔を見て、とても嬉しくなったと笑う。
「人生は喜ばせごっこや」
と寛は言った。合格発表を前に「絶望の隣は希望や」とも言っていたが、常にいい低音を響かせ名言を発する存在となっている伯父・寛の口から、またしても名言のような言葉が飛びだした。

〝ごっこ〟とつけるところにユーモアを交えているところに寛らしさ、この作品らしさを感じるが、「喜ばせごっこ」をするためにどうすればいいか、それを嵩が咀嚼し、やがて自身の手で表現していくことになるのだろう。

次週、嵩の芸術学校での生活がスタートする。のぶもまた、女子師範学校でさまざまな生き方を学んでいくことだろう。その一方で戦争の影もしのびよる気配だ。そして蘭子の縁談のゆくえは……第6週も気になる展開だ。

「あんぱん」第25回より(C)NHK

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