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ゴッホのマグカップ×介護の意外な物語!入れ歯洗浄が…【認知症母との介護生活#37】

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更新日

ぱいなっぷりん

60代主婦の日常を、4コママンガとエッセイにしてブログで配信をしている、ぱいなっぷりんさん。その中から、「認知症母との介護生活」を順に紹介していきます。

▼「認知症母との介護生活」マンガ 1話から読む▼

>>想像の遥か上を行く発想をする母に、考えたことは?【認知症母との介護生活#1】

母に入れ歯の洗浄をやらせたところ…

その マグカップは

私が 長年
愛用しているものだった

ものにこだわるような生活には
縁遠い
私の 日常の中で

それは ほとんど唯一の
思い入れのあるものだった

10年以上 前のこと

大好きな ゴッホの
展覧会に行って

そこのミュージアムショップで
見かけた
大好きな ひまわりの絵が描かれた
マグカップ

一目惚れだった

おうちに 連れて帰って

落ち込んだ時や
心がささくれだった時

そのカップで飲む コーヒーで
私は
どんなに 癒やされたことか

いっぽう 母は
絵画には まったく趣味のない人で

私の そのカップが
水切りラックの上に
伏せてあると

薬を飲む時や 喉が渇いた時
お花に 水をあげる時

ちょいちょい 使う

私は それを目撃したあと
さり気なく カップを
棚の奥に しまい込む

後日
思いついて

私は 母に
マグカップを
プレゼントしたことがあった

クリムトの花の絵が 一面についた
それは
違う日に
ミュージアムショップで買ったもの

そして

この ゴージャスな花柄の
新しいカップは
おかーさんのね

この 枯れかけた
ヘンなひまわりの絵の カップは
私のよ


わざわざ 大好きなゴッホを
貶めるような表現を 使ってまで
母に それぞれの所有者を
印象付けようとしたんだけど

無駄だった

母にとって
カップは カップ

我が家の棚に
マグカップが ひとつ
増えただけのことだった

そして
入れ歯を洗浄するときに 使う
ケースが見当たらなかった
その日

キッチンに ケースを探しに行った
母の目は

何故か
どうでもいいコップや カップ
ではなく

クリムトのカップ
でもなく

ゴッホのカップを
ロックオンした

理由はない

母にとって 理由はないけど

私にとって それは
まったく不条理な 出来事だった

想像してほしい

お気に入りのカップに
ひとの入れ歯が 浮かんでいることを

ついでに言うと
緑や 茶色の 浮遊物も
あることを

子どもの頃

私は 自分に
大いなる誤解をしていた


ゴキブリや 蜘蛛を
目撃したら
キャーキャー と叫び
誰かに どうにかしてもらう

台所の食器洗いを 手伝っても
生ゴミを片付けるのは 母任せ

父親の下着は
臭い と眉をひそめ

赤ちゃんはかわいいけど
おむつ替えなんて ムリムリ

な~んて態度でいても
ことが 済む

自分だけは

世の中の
穢れたものから 隔絶された

ふわふわで ぷるぷるで
ピンクで キラキラの世界に
安住しても
許される存在

だと思っていた

あの頃の私が
お気に入りのカップに 入った
入れ歯を 見たら

先ずは 雄叫びをあげ

次に 怒り狂い

その後
そのカップは 捨てただろう

大人になって
私は
いろいろなことを 経験した

生きていく上では
汚いことも 不可避であることを
実感したし

清潔で 美しく見えるものの
裏では
必ず 誰かが
汚い部分を担っていることを
知った

今や 私は
抵抗なく
母の入れ歯は 手で触って 洗う

母の 汚れた下着も
うまく道具を使って 洗濯する

そして
その ひまわりのカップは…

引き続き 愛用している

だって
ケチだしね 自分

なんたって
大好きな ゴッホのだし

世は SDGsだしね

ま コーヒーを飲む時

ふと あの洗面所のシーンが
頭に浮かぶこともあるけど

大丈夫

最近 忘れっぽいからね

いずれ 忘れる

▼次回はこちら▼

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