認知症母の「ちらし寿司事件」から見える介護のリアル【認知症母との介護生活#43】

▼「認知症母との介護生活」マンガ　1話から読む▼

ちらし寿司を2等分してと頼んだら…

これは　実話です

先日
叔母に頼んで　買ってきてもらった
コ○トコの　ちらし寿司

これ
コスパがいいので
結構リピしてる

その日

母とふたりで始めた
夕飯の準備で

私は
ちらし寿司の　取り分けを
母に　頼んだ

母は　認知症なので
手順が　複雑だったり
私が言葉で　説明しにくいことは
理解できない

でも

ちらし寿司と　お皿を2枚
一緒に手渡して

このお寿司を
このお皿に　入れてね

と言うと

それは　できる

母は　テーブルのところで
お寿司の取り分けをし

その間　私は
キッチンで　サラダとお吸い物を
準備した

それらをつくり終わり

テーブルに運び

何気に　テーブルの上を
見渡した時だった

私の目は
そこに置かれた　二皿に
張り付いた

私の席に　置かれた皿は

印象として
ドカンと　黄色一色だった

一方
母の席に　置かれた皿は

宝石箱を
ひっくり返したような　カラフルさ

な…何だ　この違いは

同じちらし寿司から
取り分けたんだよね？

自分の想定と　目の前の現実との
整合性が取れなくて
私は　混乱した

混乱しながらも
その　色の違いの理由を
確認した

私のちらし寿司は
酢飯が
大量の錦糸卵で　覆われていた

よくよく見れば
その上に
薄桃色の　小さなむきえびが
花びらのように
2つ　3つ　散っている

一本だけある
短い　ホタテのヒモらしきものが
枝に見えなくも　ない

これは　これで
風雅…なのか？

そして
母のお寿司の方に　目を移すと

酢飯に敷かれた　錦糸卵の上には
それが隠れるくらい
エビや　イクラや　サーモンが
ふんだんに散らされ

その上に　大粒のホタテが
ゴロゴロと　載っている

完全に　別物だ

母は
お寿司が　大好き

それは　知っている

認知症になると
自分の感情を抑えるのが
難しくなる

それも　理解している

でも…

私だって
お寿司は　大好き

私の心は　乱れた

この現実を
余裕を持って　受け入れるには
私は
お寿司を　好き過ぎる

…な～んていっても
所詮
コ○トコのお寿司の話なんだけどさ

今日は　一日
母が　家にいる日だった

母から　繰り返し話される
同じ話を　聞き

母の探しものに　付き合い

その間に　家中の掃除も　したし

断捨離も　した

一日中　よく働いて

さて　夕飯はどうしよう

と考えていたところに
叔母さんから　電話があって

今　コ○トコに来てるんだけど
何か　買ってきてほしいもの
ある？

そう　言われて
思わず頼んだ　お寿司

いつもの夕飯の時間を　過ぎて
待ちに待って　届いたお寿司

おかあさん
自分ばっかり　ズルイ

　そう思う感情を
私は　止められなかった

そして　それがトリガーとなって
日頃　母に抱いている　不満が
次々　溢れ出てきて

あんなことも　あった

こんなことも　された

そんな負の感情に
心乱されてるうちに

自分の中で
ズルをされ　逃した(多分)魚は
どんどん肥大化し

銀座の　超一流寿司店のお寿司を
食べ損ねた(多分)ような
気分だった

でも

と　私は思った

母は91歳
認知症

私は　60余年生きてきて
腹のたつことや
不条理なことも　あったけど

自分なりに　咀嚼してきた

そして
自分なりの　納得の仕方を
学習してきた

じゃ　食べようか

私は　にこやかに言いながら
手のひらを合わせた

いっただっきま～す

その言葉と同時に
母は　前のめりになり

先ずは　ホタテを
頬張った

おいしいわねえ　これ

そう言う　母の顔は
実に　幸せそうだった

そりゃ　よかったね

こっちのお皿には　短いヒモしか
載ってないから
本当に　おいしいかどうか
私には　わかりようもないけどね

心の中で　そう　毒づきつつ
私は　考えていた

明日
母は　デイホーム

母がいない間に
桜のきれいな　川沿いを
お散歩しよう

母は
もう　そんなに歩けないけど

私は　歩ける

そして
隣町の　おいしいお寿司屋まで
行こう

母は
もう　自分では
どこへも　出かけられないけど

私は
行きたいところは　どこでも
行ける

コ○トコより　もっとおいしい
お寿司を
食べられる

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