「幸せになったダウン症の人に会いたい」世界が集まる喫茶店!金澤翔子さんの元気の秘密と母・泰子さんの子育ての答えは?
世界各地で個展や公演を開催する、ダウン症の書家 金澤翔子さんが表現する書。翔子さんを世界の舞台で活躍する書家へと導いた、母であり書の師匠である、金澤泰子さんの文。母と子が奏でる、筆とペンの力をじっくりとお楽しみください。
元気の泉
喫茶店はつつがなく大繁盛が続いている。翔子もマニキュアをした綺麗な手で、休むことなくしっかりとウエイトレスに徹している。少しおかしなところがあったとしても、翔子に会いにいらしてくれている人々はニコニコとそれらを受け入れ、スパゲッティやカレーライス、ハンバーグ等を美味しいと言って召し上がり、コーヒーも楽しんでくれている。「あの翔子ちゃんが運んでくれたコーヒーを飲めるなんて」と涙ぐんでいるご婦人たちもいる。
14歳のダウン症の男の子を連れたご家族4人が、「幸せになったダウン症の人を一目見たかった」とわざわざカリフォルニアから翔子に会いにいらしてくださった。外国の方も多いけれど、アメリカから翔子に会うためだけに飛行機に乗って来てくださったとは感動だ。日本各地、津々浦々から沢山の方々が翔子に会うために、喫茶店を目指して来てくださる。
翔子も一日も休まず店に出て懸命にお茶を運び、食べ終えたお皿を片づけ、テーブルを拭き、グラスのお水に気を配り、帰るお客様を丁寧にお送りしている。いっときも休まず懸命だ。グラスを落としたり水をこぼしたり、転んだりなど一度もない。この1年2ヶ月余り、遅刻も失敗することもなく頑張っている。
他の人は寒い日には風邪をひいたり、疲れたり胃が痛かったりと、難しい日もある。けれど、翔子にはそんなことはなく元気ハツラツ、全く疲れたと言わない。身体には「疲労」というものがあるということを知らないから、疲れないのだろうか。
まわりの人たちが「お母さん、少し休ませたらどうですか」と言ってくださるけれど、翔子は疲れるという概念がないのだから、予測して「疲れるといけないから休みなさい」などという説明も注意も無意味だ。私は本当に翔子が音を上げる日を待っている。その時初めて、「体は疲れて、ケアしてあげなければ参ってしまうのだよ」と教えられる。
疲れというものは、多分に思い込みもあるのかもしれない。どんなに肉体労働をしても、疲れるという言葉が分からなければ存在しないのだろう。今元気にハツラツと働き、喜びに生きている翔子に、もし「休みなさい」と強制すれば、翔子は寂しくて哀しくて、心が沈んでしまうかもしれない。予測する観念がないということは、知的障害を持つ翔子の利点かもしれない。
金澤泰子 ● かなざわ・やすこ
書家。明治大学卒業。書家の柳田泰雲・泰山に師事し、東京・大田区に「久が原書道教室」を開設。ダウン症の書家・金澤翔子を、世界を舞台に活躍する書家へと導いた母として、書の師匠として、メディア出演や本の執筆、講演会などで幅広く活躍。日本福祉大学客員教授。
金澤翔子 ● かなざわ・しょうこ
東京都出身。書家。5歳から母に師事し、書を始める。伊勢神宮など国内の名だたる寺社や有名美術館の他、世界各地でも個展や公演を開催。NHK大河ドラマ「平清盛」の題字や国連本部でのスピーチなど活動は多岐にわたる。文部科学省スペシャルサポート大使、紺綬褒章受章。昨年12月、大田区久が原に念願の喫茶店をオープンした。 今年は書家デビュー20周年の記念の年となる。
文/金澤泰子 書/金澤翔子
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※この記事は「ゆうゆう」2026年5月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。
