【残間里江子さん・76歳】ひとり黙々と一万歩歩くより 「人とわいわい」がフレイルを遠ざけます
60歳過ぎからの新しい仲間づくりの場
それから、あっという間の16年だった。
「こんなに長く続けるつもりはなかったんです。でも、会員が増え続けているので、やめるにやめられない(笑)」
現在、全国に1万5000人以上の会員がいる。
「集うことで皆、すごく元気になっています。私も仲間たちに日々励まされています」
混声合唱団には40代から80代まで約70人が所属している。
「声を出していることもあって、みんな元気。レッスンのあとに居酒屋で一杯やるのも大事なひとときになっているようです」
月に2回ずつ、3カ月が1コースで、入るのも出るのも自由。
「互いにいい距離感で新しい友情を育んでいます。血縁や地縁のない人と人生の途中から友達になるというのもいいものです。自分のことを知りすぎている昔からの友達や、わずらわしい近所づき合いとは違う新しい人間関係を築けます」
配偶者を亡くしたある男性は、「子どもたちに、自分が家に引き込もることを恐れられている」と感じ、偶然知ったクラブ・ウィルビーに参加した。
「なかなか外に出にくい女性や、仕事を退職した男性たちが参加できる、それまで所属していた場所とは違うコミュニティをつくれたらと思ったんです」
人と関わるほどに棺桶が遠ざかる
定期的に開催している実践健康セミナーで昨年、東京大学高齢社会総合研究機構・未来ビジョン研究センター教授の飯島勝矢さんが「フレイル」についての講演をした。
「そのとき、飯島さんは『社会とのつながりを失うことがフレイルの入り口になる』と話されました」
フレイルとは健康と要介護の間の状態。早めに対策をすれば健康に戻れる段階だ。社会性(人とのつながり)の低下が引き金となって心身の衰えが加速する、といわれる。
「飯島さんによると、運動や栄養も大事。だけどひとりで黙々とたんぱく質をとって、修行僧のように苦虫をかみつぶした顔でウォーキングしてもダメですよ、と。もちろん、体には悪くないけど、フレイルにはプラスになっていないそうです。みんなとわいわいコミュニケーションを取る、社会とのつながりのほうが何倍も大事なんだとか」
そうは言っても、大人になってからの新しい人間関係の構築は意外と難しい。
「元気で長生きしたかったら、人と関わるのがわずらわしいなどと言っていてはダメ。それは棺桶へ一歩近づくことです」
手厳しいひと言が飛んできた。
「私の見る限り、会社で偉くなった人ほど、新しい人間関係をつくるのが苦手です」
残間さんのまわりに多い退職男性の一例を挙げると……。
「出版社で編集長をしていたある男性は、60代の頃、趣味で楽器の演奏を始め、小さなホールで演奏会を開いたりしていました。最初は家族や友達も観に来たけど、その後、レパートリーも増えず、3年目くらいになると周りも期待しなくなって、70歳頃にはやめてしまった。その後は家に引き込もって保護猫を抱っこしながら本を読む生活に。誰に本の感想を言うでもなく、『なるほど、これはこうだな』と勝手に分析するだけ。『読書会に行けば』とすすめても、『本をつくっていた人間がそんなところには行けない』と拒否。しかも好きなジャンルの本しか読まない。こういう人はフレイルになりやすいと思います」
プライドがじゃまをして、友達をつくれないのだ。
「男性には部長とか取締役といった職位に退職後も呪縛される人が多い。でも、俺はすごいんだと思っていた人が、クラブ・ウィルビーに入ったら、もっとすごい人がいて、本当に能ある鷹は爪を隠すものだと知り、はっとわれに返ったという例もあります。それも人と交わればこそ。誰とも会わなければ何にも気づかないわけです」
実践健康セミナー
