【大奥9話】それにしても、三浦透子(家重)の芝居は凄まじい。大河『八代将軍吉宗』の中村梅雀の名演が重なる
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田幸和歌子
吉宗を将棋でやり込めた家重の、一瞬こぼれた得意げな顔と、即座の謝罪を吉宗は受け止め、「秀でた頭を持っている」と称える。その一方で、世の困り事が尽きぬこと、自分も様々な手を尽くしてきたが、失敗することはしばしばあり、逃げ出すこともできず、時として世の恨みを買うこともあるという「将軍」の辛さを語る。「それでも人の役に立ちたいと思うか」と聞く吉宗に、これまでと同じく「私には政などとてもできませぬ」と家重は返すが、吉宗はそれが本心ではないと感じていた。
そして、「役立たずだから死にたい」という家重の言葉を、「裏を返せば、生きるなら人の役に立ちたいということでは?」「人の役に立ち、それを己の生きる意味にしたいのでは」と解釈した。
当初は家重を世継ぎとすることに迷いも悩みもあった吉宗だが、こうした理解に至ったのは、吉宗が子どもの頃から家臣や周りのことを考えていたことを誰より知る久通の言葉だ。
「将軍の器とは、他の者を想う心の有る無しであると私は考えております」
そして、吉宗の言葉に家重が返したのは、杜甫の漢詩『絶句』。これは吉宗の前でかつて詠めず、妹が立派に詠み、自身は失禁してしまったときの屈辱の詩だ。実は家重は知っていたが、自身の言語不明瞭さを恥じ、声をあげられなかったのだ。
「意気地なしでございます。そんな私でもできますか。誰かの役に立つことが」と聞く家重を、吉宗は抱きしめ「頼めるか、家重」と託す。
生きる理由を「子を産む道具」のみとされた『大奥』の女性たちの悲しみから一転、自身の弱さも得手不得手の歪さも知りつつ、なおも「誰かの役に立ちたい」と願う為政者がここに誕生した瞬間だった。