「離婚は幸せになるための選択。おめでとうと祝福されていい」直木賞作家・千早茜さんの実体験が色濃く反映された長編小説
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ゆうゆう編集部
2022年『しろがねの葉』で直木賞を受賞した千早 茜さん。大人の女性の離婚、婚活、恋愛を描いた最新作『マリエ』は、自身の離婚体験が色濃く反映されているといいます。
離婚は「真っ白なシーツを青空の下にひろげた感じ」
「結婚したときにはみんなに祝福されるのに、どうして離婚すると腫れ物扱いになるんだろう」
千早茜さんが『マリエ』を書き始めたのは、そんな疑問からだった。物語は、主人公の桐原まりえが夫の森崎とともに離婚届を提出しに行く場面から始まる。「恋愛したいから離婚してほしい」と夫から切り出され、2年近くの話し合いの末に離婚に応じた。納得ずくの離婚だからだろう。まりえは離婚を「青空の下に真っ白なシーツをひろげたような感じ」と語る。このイメージには、千早さん自身の離婚体験が、色濃く反映されている。
「私も夫婦で長く話し合って納得して決めたので、離婚届を提出する頃にはすっきりしていました。離婚後は住み慣れた京都から東京に引っ越したこともあり、私は『新しい旅立ち』だと思っていたのですが、周囲の反応は違いました」
友人には気の毒そうな顔をされ、親には「今後の人生どうするの?」と問い詰められた。
「離婚だって、2人が幸せになるための選択。それは結婚と同じなのに、まったくもって祝ってもらえないんだなぁって(笑)。祝わないまでも、『今、どんな気持ち?』と聞いてほしいですね。相手が『すっきりした』って言うなら『よかったね』と祝っていいと思います」
一人になったまりえは、ひょんなことから結婚相談所に入会し、数人の男性とお見合いをする。このエピソードが妙にリアルで興味深い。
「同年代の編集者さんと結婚相談所を取材しました。マリッジコンサルタントの方と話したり、お見合いを経験した人に取材をしたりしました。驚いたのは、入会時に独身証明書の提出が必要と言われたこと。そんな証明書があるなんて知りませんでした。男性の場合、医師や弁護士など高収入の職業の人は資格証明書も必要ですが、女性は不要です。なぜなら女性の場合、高収入はメリットにならないからなんです」
物語の随所に、まりえが体験する小さな女性差別がちりばめられている。女性客にはタメ口で話すタクシー運転手、大きな声を出して黙らせようとする配送業者、お見合いの席で「家事を分担したい」と言うとあからさまにイヤな顔をする男性。
「こういう小さな差別って、じわじわとボディブローのように効いてくるんです。それに対して声高に怒りをぶつけるのではなく、まりえの目を通して冷静に観察させました」