橋幸夫さん、78歳で念願の大学生に!「学び続ける限り、人生に引退なし」
探求心と向上心は衰えない
引退を発表して以降、「大学で学びたい」という思いを周囲に語っていた橋さんの耳には、大学に関するいろいろな情報が入ってきた。
「僕は書道に加え、子どもの頃から絵を描くのが好きでね。芸能界に入ってから油絵を習っていた時期もあります。だから芸術大学の通信コースがいいんじゃないかと友人が教えてくれて。通信教育であれば大学に毎日行かなくても、家にいながらリモートで学べる。そうか、そういう方法があるなら高齢の僕でもできそうだなと。
ちょうど22年4月から京都芸術大学に書画コースが開講されることになって。しかも僕がキャレモジを習っていた宮村弦先生が同コースの講師に就任。この機会に入学しようと気持ちが固まりました」
とはいえ、入学時期は最後のコンサートツアーの最中だ。
「僕も引退してから大学に入ろうと考えていたんですが、せっかく新しいコースができるのだから、第1期生がいいと思いましてね。とはいえ、コンサートツアーと大学の勉強の両立は……想像以上に大変でした」
橋さんが学ぶ「書画」とは、書(文字)と絵画(水墨画)を指す。中国には「書画同源」、つまり書と絵画、二つの芸術は「筆墨によって生み出される一体的な芸術だ」という考え方があるそう。大学では、書画の歴史や漢字文化などの理論系と、書と水墨画の技術を体得する実技系、両方を体系的に学んでいく。
「最初は、『文字の起源』なんてところから勉強して。しかも教科書には中国古典が引用されていて、当然ながら全部漢字。読みがなもふられていないので読めない! 辞書を引きながら読むだけで四苦八苦。レポートの提出に追われて、ツアーの移動の新幹線の中でも書いていましたよ」
難しいからこそやりがいがある
実技も基礎からきっちり習う。
「書道には5つの書体があるんです。僕は楷書は学んだけれど、最も古い書体、篆書なんて書いたことがない。印鑑などに使われる文字ですが、逆筆といって筆運びのルールが楷書とは逆。うまく書けなくてね。
ツアーの合間に頑張って書いて提出した課題が最低のD判定を受けたときは、『何でDなんだ! 頭にくる!』と、家内相手にグチをこぼしました(笑)。Dだと落第。単位を取るには再提出しなきゃならない。だけど僕はね、クソッと思うと、よーし!と燃えるんです。勉強は闘いですよ(笑)」
と橋さんらしい威勢のいい言葉が返ってきた。どんなに勉強が大変でも、「大学をやめようと思うことはなかった」と言う。
「せっかく学ぶチャンスをいただいたわけですし。いい加減にはできない性分でね、やるからにはきちっと成し遂げたいんです」