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【光る君へ】周明(松下洸平)、藤原宣孝(佐々木蔵之介)の2人に言い寄られる紫式部(吉高由里子)。果たしてどちらを選ぶ?

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志賀佳織

【光る君へ】周明(松下洸平)、藤原宣孝(佐々木蔵之介)の2人に言い寄られる紫式部(吉高由里子)。果たしてどちらを選ぶ?

大河ドラマ「光る君へ」第23回より ©️NHK

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2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」。『源氏物語』の作者・紫式部のベールに包まれた生涯を、人気脚本家・大石静がどう描くのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第23回「雪の舞うころ」と第24回「忘れえぬ人」です。

前回はこちら↓↓ 
【光る君へ】藤原道長(柄本佑)への変わらぬ想いを伝える紫式部(吉高由里子)。二人は唇を重ね…

『紫式部と藤原道長』(倉本一宏著・講談社現代新書)によれば、まひろ(後の紫式部/吉高由里子)が、父・藤原為時(ためとき/岸谷五朗)の赴任にともなって越前に住んだのは、長徳2(996)年から長徳3(997)年のわずか1年ほどだ。

しかし、ドラマに描かれているように、当時の越前が宋(そう)の国から大挙して人が押し寄せて賑わっていたのだとすれば、初めて出会う異国の人々や文化、慣習に、好奇心旺盛なまひろのこと、目を輝かせ、胸をときめかせていたに違いない。

都の窮屈なしきたりや人間関係を一旦脱ぎ捨てて、新天地で生きるまひろにはさまざまなものが目新しかったことだろう。そして、藤原道長(柄本佑)への苦しい恋慕に対しても、距離を置いて眺められるゆとりのようなものができたかもしれない。

この「越前編」、とりわけ今回の第23回と第24回では、そんなまひろの心の成長、次なるステージへの大きな一歩が描かれていて、紫式部として世紀の名作を書くに至るまでの、さまざまな「貯金」がこうやってできていったのか、と見る側の期待やときめきも、さらに盛り上がってきた。

第22回の最後の場面で、宋の通事(つうじ)・三国若麻呂を殺したとの疑惑を掛けられた宋人・朱仁聡(ヂュレンツォン/浩歌)。しかし、それは濡れ衣であるといって、宋の見習い医師・周明(ヂョウミン/松下洸平)が証人を伴ってまひろたちのもとへ乗り込んできた。「朱様は通事を殺していない」というあまりにも明瞭な日本語に戸惑うまひろ。

結局、その証人によれば、早成(はやなり)という商人が通事を殺害するのを目撃したため源光雅(みつまさ/玉置孝匡)に知らせたところ、殺したのは朱であると証言しろと強要されたというのだ。

結局、朱は無実であったが、光雅がそうした背景には、宋の交易をめぐる越前と朝廷との攻防があった。事実、助けられた朱は、自分たちは商人ではなく、宋の朝廷の密命を受けた官人で、国同士の交易を樹立しない限り帰国できないと告げて、為時は頭を悩ませるのだった。

周明は自身の生い立ちをまひろに明かす。生まれは対馬(つしま)で「12のとき、親父は口減らしのために、俺を海に捨てた。海に浮かんでいる俺を宋の船が拾った。宋では牛や馬のように働かされた。ある日、ここにいたら死ぬだけだと思って逃げ出した」。その日からまひろは周明に宋語を教わるようになる。

一方、都では一条天皇(塩野瑛久)が、産み月間近の藤原定子(さだこ/高畑充希)の身を案じて落ち着かない。「高階(定子の実家)に密かに行くことは叶わぬであろうか」と蔵人頭(くろうどのとう)の藤原行成(ゆきなり/渡辺大知)に訴える始末である。

そんな息子の様子を案じた母、女院こと藤原詮子(あきこ/吉田羊)はその夜、弟・道長に「帝の中宮への思いは熱病のようね。お前にはわかる? わからないわよね」と語りかける。

すると、道長、こんなことをポロッともらしてしまうのだ。「私にも妻が2人おりますが、心は違う女を求めております。己ではどうすることもできませぬ」。驚く女院は「やっぱり! 誰かいると思っていたのよね」と身を乗り出してくる。「されど、終わった話にございます」「下々の女でしょう? 捨てたの?」「捨てられました」「道長を捨てるってどんな女なの?」「よい女にございました」

大河ドラマ「光る君へ」第23回より ©️NHK

こういう場面を折々ではさんでくるあたり、やはり心憎いなぁ。自分のことを「夫を繋ぎ止められなかった」と言う女院もなんだか切ない。のちの『源氏物語』には、こうしたさまざまな人間像がぎゅっと盛り込まれたのだと改めて感じたりする。

高階邸では定子が、後の『枕草子』を毎日届けて励ましてくれたききょう(清少納言/ファーストサマーウイカ)に向けてこう言う。「そなたが御簾の下から差し入れてくれる日々のこの楽しみがなければ、私はこの子とともに死んでいたであろう。少納言、ありがとう」。それを聞いてききょうも「もったいないお言葉」と感涙にむせんだ。

再び場面は越前へ。視察のため旅立った為時の留守を守るまひろは、いつものように浜辺を周明と歩いていた。妻はいないのかと問うまひろに「いない」と答える周明。「朱様が帰ると言わない限り俺たちは帰らない。なぜ朝廷は宋との直々の商いを嫌がるのだ」「わからない、なぜあの人はそこまで頑ななのかしら」と答えたまひろの言葉に、急にするどい目つきになる周明。「あの人」は誰かと聞かれ、「左大臣で知り合いなのだ」と答えるまひろ。

そんな2人の様子を少し離れたところから見守る人がいた。ずっと来る来るといって音沙汰がなかった父の友人・藤原宣孝(のぶたか/佐々木蔵之介)がいきなりやってきたのだ。

地元のうにを振る舞ってもてなすまひろを、いつにもまして情感あふれる眼差しで見守る宣孝。「わしには3人の妻と4人の子がおる。子らはもう一人前だ。官位もほどほどに上がり落ち着いたと思っておった。されどお前と会うと、違う世界が垣間見える。新たな望みが見える。未来が見える。まだまだ生きていたいと思ってしまう」

なるほど、まひろの魅力ってそういうところなんだなぁとしみじみする台詞である。道長の言う「よい女」をひも解くと、こういうことなのかもしれない。現代の感覚だと、「3人の妻と……」なんて堂々と言われたら、「何を!」と思ってしまうのだが、この宣孝の台詞は「大人」の素直な気持ちを吐露したものとして、ああいいなぁと、いい「告白」だなぁと、これはこれでキュンとしてしまった。

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