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「55歳まで崖っぷちでした」100万部を超える作家が売れない時代も書き続けられた母の言葉とは?

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ゆうゆう編集部

失敗はすべてネタ。書き続けることが幸せ

母との幸福な時間は6年前、認知症の母を自宅で看取るまで続いた。親子関係に恵まれた山口さんだが、その分、他の人間関係が薄くなってしまった面もある。

「独身で子どももいないし、親友と呼べるほどの人もなし。いるのは猫くらい。母との暮らしで精神的に満たされて、それ以外の人間関係を構築する欲がなかったんですね。以前、『毒親』をテーマに書いたときに気づいたのですが、私とは逆に親子関係がうまくいかなかった人は、配偶者や友人に恵まれる場合が多い。結局、誰でも自分の人間関係をかき集めれば同じくらいになるのでは。つまり『人間関係はすべて足すと10になる』と思うんです」

結婚して次世代につながる子どもを育てる人生は理想的としつつも、「私は大好きな母と60年一緒に暮らせて幸せでした。オリンピックでいえば、メダルには届かなくても、8位入賞くらいの幸せかな」と笑う。

「人間関係は足すと10になる」

親子、配偶者、友人などの人間関係をかき集めると、誰もが等しく10くらいになると考えている。恵まれない部分があっても気にせず、また、人間関係は縁だから、うまくいかないときは無理せず距離を置くようにしている。

55歳で「たまたま」賞をとった自身の人生を、「全くほめられたものではない」と言う。また、賞をとれたから幸せな人生になったのかというと、それも違うようだ。

「私は書くことが好きで、書いていれば幸せでした。好きなことのために努力できることが幸せなんだと思います。努力は報われないことのほうが多いかもしれません。でも全力でやればあきらめもつく。その先には別の世界も見えてきます。でも失敗を恐れたり、カッコつけたりして全力を出さないと、その先に待っているのは後悔です。後悔は人の心をむしばむ恐ろしい感情で、それこそが不幸の源です」

「人生は反省ばかり」と山口さん。反省と後悔は全く違うものだという。

「崖っぷち人生にも、介護の日々にも反省はたくさんあります。数々のお酒の失敗や、振り込め詐欺にひっかかりそうになったことも大いに反省しています(笑)。でも、後悔はしていません。だって、小説家にとって失敗は全部ネタですから。自分を偉く見せず、飾らずに等身大の自分で全力で取り組むこと。これが反省はしても後悔しない生き方のコツだと思います」

「他人の不幸は蜜の味、自分の不幸はメシのタネ」

順風満帆なお話なんて誰も読みたくない。不幸やアクシデントこそがドラマ。そう思って自分の人生も俯瞰すると、気負わず、正直に生きていける。「書き続ける」という夢に向かって走り続ける山口さんを支える言葉。

PROFILE
山口恵以子 作家

やまぐち・えいこ●1958年東京都生まれ。
脚本家を目指し、プロットライターとして活動した後、丸の内新聞事業協同組合の社員食堂に勤務するかたわら小説の執筆に取り組む。
2013年『月下上海』で第20回松本清張賞を受賞。
「食堂のおばちゃん」「婚活食堂」「ゆうれい居酒屋」シリーズの他、『バナナケーキの幸福』『いつでも母と』など著書多数。

取材・文/志村美史子 写真/橋本 哲

※この記事は「ゆうゆう」2025年2月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

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