【堤真一さん&山田裕貴さん】終戦を知らず、木の上で2年間生き抜いた兵士役を熱演。映画『木の上の軍隊』に込めた思いとは?
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志賀佳織
太平洋戦争末期の沖縄戦のさなか、追い詰められた2人の兵士がガジュマルの木の上に身を隠し、2年間敗戦も知らずに生き延びた─。この実話を基に作られた戯曲『木の上の軍隊』がこのたび映画化。主演の堤真一さんと山田裕貴さんに、この作品に込めた思いについて聞きました
PROFILE
堤真一さん 俳優
つつみ・しんいち●1964年兵庫県生まれ。
87年「橋の上においでよ」でドラマ初主演。舞台、ドラマ、映画の各方面で活躍。
映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で第29回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞。
7月4日映画『ババンババンバンバンパイア』が公開される。
9〜10月に中村倫也と待望の二人芝居が実現する舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』に出演予定。
PROFILE
山田裕貴さん 俳優
やまだ・ゆうき●1990年愛知県生まれ。
2011年「海賊戦隊ゴーカイジャー」で俳優デビュー。
22年エランドール新人賞、24年映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編-運命-/-決戦-』『キングダム 運命の炎』他の演技により、第47回日本アカデミー賞話題賞受賞。
近年の出演作に大河ドラマ「どうする家康」、ドラマ「ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と」、映画『夜、鳥たちが啼く』など。
舞台作品が新たに映画として生まれ変わって
今年は、太平洋戦争の終結から80年。それを記念したさまざまな作品が制作されているが、映画『木の上の軍隊』もその一つだ。戦争の最終盤、沖縄戦で起きた実話を基に描かれた作品である。戦況が悪化の一途をたどる1945年、飛行場の占領を狙い、沖縄県伊江島に米軍が侵攻。島は壊滅的な状況に陥る。仲間が次々に殺され、追い詰められていく中で、2人の日本人兵士が逃げ惑った末に命からがらガジュマルの木の上に身を隠す。そして、そこから2年間、日本の敗戦を知らぬままに樹上で暮らしたというのだ。
この実話を聞いた作家で劇作家の井上ひさしさんが遺したメモを原案に舞台化された作品を、このたび沖縄出身の平一紘監督が映画化。映画用に新たに脚本を書き、その主役を堤真一さん、山田裕貴さんが務めることになった。オファーを受けたときの思いを、堤さんが語る。
「僕が演じる山下という少尉、山田くんが演じる沖縄出身の新兵・安慶名(あげな)セイジュン。舞台は台詞劇なのですが、それを今回映像化するにあたって、監督が、言葉よりも、2人の関係性で見せていくようにしてくださいました。『反戦』はこの作品の大事なテーマの一つではあるのですが、それだけが前面に出るのではなく、人間ドラマとしてもきちんと描かれている。起きていることは悲惨なんだけれども、苦しくても笑って生きようとする沖縄の人の力というのか、そういう明るさも描かれていて、そこがいいなと思いました」
山田さんも二つ返事で出演を決めたという。
「マネージャーさんの『あ、裕貴、こんな作品の話が来たよ』っていう言葉に、すごい期待と嬉しさがこもっていたので、ああ、これは何かこれまでとはまた違った挑戦のできる作品なのだなと直感しました。そして、お相手が堤さんだと伺った瞬間に『やります!』と即答していました。これまでこうした実話に基づいて書かれた、ヒューマンな作品にチャレンジできるチャンスはあまり多くなかったんです。それもあって即決しましたね。脚本も映画用としてギュッと凝縮されたものになっていったので、撮影に入るのが楽しみでした」
ガジュマルの木の上はだんだん居心地のいい場所になっていきましたね
2人が2年間を過ごす重要な舞台となるガジュマルには、本物の木が使われているというから驚く。撮影の行われた伊江島のミースィ公園に移植されていたガジュマルに、もう一本のガジュマルを移植し2本の木を根づかせて、ようやく樹上に大きなスペースのあるガジュマルが完成した。堤さんが言う。
「知念さんというスタッフの方が植樹して約1年かけて作ってくださったんですが、ちゃんと根づいてこれで大丈夫だとなるまで、ずっと胃が痛かったらしいんです。やはり映画って、多くの人に支えられてできている。本当に幸せな現場でしたね」
堤さん演じる山下は宮崎から来た「内地」の人間で、片や山田さん演じる安慶名は沖縄出身の「ウチナー」。しかも軍隊においては山下は上官で安慶名は新兵。年齢も親子ほどに違う。全く立場の異なる2人が、死の恐怖と隣り合わせで、飢えも極限に達していく中、それでも生きていくためには、力を合わせて知恵を絞り合っていくしかない。2年の歳月はその距離にも徐々に変化をもたらしていくのだが、2人はどうやって登場人物になり、互いの関係性をつくり上げていったのだろう。
「映画はほぼ順取りで撮れたので、台本どおり進められましたね。最初に木の上に登ったときは、やはり居場所がないような気がしたけど、それもだんだん居心地がよくなってきて。山下は『敵のものは食べない』ことで、軍国主義や武士道精神みたいなものを貫こうとする。しかし、敵の襲来もなくなってくると、それも緩んで安堵してくる。その変化には自然になじんで演じられたと思います。ただ、山下は軍人で帝国主義の象徴でもあったので、時間を追うごとに『いい人』のようになっていくのは嫌だということだけは監督に話して、そこは意識して演じました。山田くんとの共演は今回が初めてですが、以前から知っていたので、印象も全然変わらないし(笑)。安慶名という人物はちょっと抜けたところはあるけれども、太陽みたいな人で真面目。だから僕が年上として引っ張っていかなきゃ、という気負いもなかったです」
あとは堤さんに台詞を投げてみる! そうできたのは心強かったです
山田さんは山田さんで、堤さんの存在に大いに支えられた。
「いや、心強かったですね。安慶名はそういうキャラクターですから、自分の思いも素直に上官に漏らしてしまいます。あの時代、新兵が自ら上官に口を開くなんて、何か大きなことがない限り駄目なはず。だから、序盤のシーンでは怖がりながら言ってみるとか、自分なりに細かな部分は決めておきましたが、あとはもう堤さんに台詞を投げてみる!みたいな感じでした。それだけで流れをつくっていただけたし、返してくださる言葉とか、もうその立ち姿だけで雰囲気をつくっていただけたので、よろしくお願いします!という感じでした(笑)。堤さん演じる山下に対して、僕の安慶名という役は戦争というものに直面したことのない存在の象徴。彼らの明るさ、朗らかさを見せることで、その耐えている姿を表すことが大事だと思ったので、そこを僕も監督と話しました」