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【ばけばけ】「抱きたいでしょ!」と詰め寄るフミ(池脇千鶴)。涙の告白から、ドタバタ喜劇への転換が絶妙![写真多数]

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田幸和歌子

それはそれで、自尊心がどこか傷つく

そして、自身の貞操を犠牲にする可能性も抱えながらも大きな決意をした一番の理由であるタエを窮地から救いたいという思い、そこから三之丞(板垣李光人)に給金の半分、10円を渡す。ここでも「花田旅館の女中」という嘘に続き、生前よくしてもらっていた三之丞の父でもある傳(堤真一)から預かったものだと嘘をつく。

よく言う「やさしい嘘」という綺麗なものではないかもしれないが、このトキの自己犠牲精神、急に手にした大金で欲しかったものを買ったり大盤振る舞いをするなどせず、誰かを助けるために使うというヒューマニズムが現れるところはトキの人間性を象徴するようで、これからの展開にも関わってくる人物像なのだろう。

元織物工場の経営者として活躍した雨清水家の転落は、格好の下世話なニュースではあるだろう。現状を知った記者の梶谷(岩崎う大)がタエを直撃取材をこころみて困らせる。どの時代もどの作品も、記者やカメラマンはこういう役どころに置かれることが多いが、三之丞がそこに割って入り、梶谷に金を握らせ追い払う。タエには社長になったと悲しい嘘をつくところも、板垣の表情豊かな演技力も相まって、なんともいえない切なさを感じる。

【ばけばけ】「抱きたいでしょ!」と詰め寄るフミ(池脇千鶴)。涙の告白から、ドタバタ喜劇への転換が絶妙![写真多数](画像6)

「ばけばけ」第34回より(C)NHK

【ばけばけ】「抱きたいでしょ!」と詰め寄るフミ(池脇千鶴)。涙の告白から、ドタバタ喜劇への転換が絶妙![写真多数](画像7)

「ばけばけ」第34回より(C)NHK

母のフミ(池脇千鶴)がヘブンの動向を伝える新聞記事を目にしたことをきっかけに、結局トキの嘘は知られるところとなり、松野家の怒りが爆発、家族総出でヘブンの家に押しかけ詰め寄る。これ以上嘘を押し通すこともできないと観念し涙ながらに真実を伝え始める。するとヘブンが声を荒げ、こう主張した。
「オトキサン、ラシャメン、チガイマス!」

ヘブンが求めるものは妾的なものではなく、純粋にウメのような女中なのだと。まさに、「オトキサン、ジョチュウ、OK?」そのもの。これはトキ自身も聞きたくても聞けなかった真相であり、ずっと引っ張ってきたすれ違いコントの〝ネタバレ〟のような状況に、責め立てられるトキ自身も安堵の表情を浮かべることとなる。

すっかり安心とはいえ、ハッキリと女性としてのトキを求めていないことが判明すると、それはそれで、自尊心がどこか傷つく。辞書を引きながらきっぱり「ダキタクナイ!」と言われると、
「それはそれで失礼でしょ!」(トキ)
「抱きたいでしょ!」(フミ)
とヘブンに詰め寄る。

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「ばけばけ」第34回より(C)NHK

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「ばけばけ」第34回より(C)NHK

【ばけばけ】「抱きたいでしょ!」と詰め寄るフミ(池脇千鶴)。涙の告白から、ドタバタ喜劇への転換が絶妙![写真多数](画像10)

「ばけばけ」第35回より(C)NHK

結局、ラストサムライ・司之助が「ペリー、覚悟!」とまた斬りかかろうとするなど、お金を何に使ったかの涙の告白から一転、ドタバタ喜劇に転換する。この涙と笑いのバランスと切り替えの絶妙さが本作の大きな魅力である。この真実のネタバレドタバタのあとに、今度は三之丞の再生を涙ながらに叱咤激励、軌道に乗るまでお金を渡し続けると宣言するトキの強さも、とてもインパクトある描き方だ。

司之助に木刀を預けられようとするくだりなどで笑いに変えながらもヘブンの女中生活は軌道に乗り始める。

そんな「オトキサン、ラシャメン、チガイマス!」と宣言された状態から、この先二人の距離や関係性はどのようなやりとりを経て変化していくのか。期待はますます高まる。

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