江戸時代の町人のような暮らしをする【稲垣えみ子さん60歳】「お金って執着しないと不思議と近づいてくる。 今、結構余ってます」
どんどん広がる人間関係。街全体が「わが家」です
稲垣さんは予定どおり50歳で会社を辞め、心機一転、新しい街での生活をスタートさせた。引っ越し先の部屋は古くて狭くて、収納が全然なかった。洋服も化粧品も食器も9割がた処分した。
「ガスコンロを置く場所も狭くて、もうカセットコンロでいいんじゃない?と思ってガスの契約もやめてしまいました。お風呂ですか? 近所の銭湯がわが家の風呂場です。考えてみたら、本は読み終えたら近所のブックカフェに持っていけば好きなときに読める。いわばそこがわが家の本棚です。そう考えれば古着屋をクローゼットにすればいいし、冷蔵庫がなくても近所のお店に毎日通えばいい。エアコンがなければ喫茶店で仕事すればいい。そう考えると、街全体がわが家なんですよ」
そこから稲垣さんの人生の新しい扉が開いた。ご近所づき合いという未知の世界への扉だ。
「人生で初めて、お店で立ち話をしました。恥ずかしくても一生懸命やると応えてくれる人がどんどん増えるんです。1回に使う金額はわずかでも、ちゃんと挨拶して、まめに顔を出して、ちょこちょこ買う。外食するのも近所のお店です。そこのおじさんおばさんに喜んでもらいたいと思って行く。欲のためじゃなく、好きな人のところに行ってお金を使いたいなって。そうしたら、近所の人が家族みたいになりました。余った総菜をおすそわけしてもらったり、風邪をひいたらスープが届いたり」
まるで江戸時代の町人のような暮らしだ。
「そうですね。電気もガスもなければ、必然的に江戸の生活になっちゃうんですよ(笑)」
お金を使えば人間関係が希薄でも大きな支障はないかもしれない。その人生を選ぶ人もいるでしょう、と稲垣さんは言う。
「でも、お金を使わなければ助け合う必要があって人間関係が大切になる。どちらがいいかは人それぞれですが、私は圧倒的に人間関係のほうがいいなと。家事も出費も最低限。何にも束縛されず『自分の手に負える暮らし』をしている実感があって、しかも友達ができる。さらに、お金を使わないので収入にかかわらずお金が余る。今の生活を始めてから、私は人生で初めて老後が怖くなくなりました」
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撮影/柴田和宣(主婦の友社)
取材・文/神 素子
※この記事は「ゆうゆう」2026年1月号(主婦の友社)の記事を、WEB掲載のために再編集したものです。
