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夏川草介さんの最新小説。現役医師の著者が今、改めて考える人の命のあり方、人の幸せとは?

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ゆうゆう編集部

人間の美しさを若い世代に伝えていきたい

暑い日も寒い日も京都の市中を自転車で走り、在宅診療に向かう哲郎。その先には、積極的な治療がかなわない人たちが、それぞれに自分らしい人生を選び取って生きている。その勇気や誇りに哲郎は寄り添う。一人一人の生き方を尊重する哲郎の姿を通して、人にとって幸せとは何かを考えさせられる。

「今の臨床現場では、患者さんの価値観をくみ取る作業に膨大な労力を使います。それでもわかり合えないことはありますが、『共感はできる』というのが僕の目指す医療でもありますから、価値観が違う人のプライド(自分の中で大事にしていること)を描くことは、大事なことでした」

物語は、そんな哲郎のもとへ、ある日、大学病院の医局から29歳の女性医師、南茉莉が送り込まれてきたことで勢いよく動きだす。大病院の価値観の中で育った茉莉が、哲郎の診断にたまらず意見してしまう場面などは、次の展開が気になってぐいぐい引き込まれる。舞台が京都というのもいい。おいしいものもたくさん出てくる。

「僕はまず風景を描かないと、その中で動く人間が描けないんです。信州以外に知っている街というと、大阪の実家から近く、若い頃、慣れ親しんだ京都でした」

医師と作家。二足の草鞋を履きながら、なぜ小説を書くのか?

「臨床の現場では、非常に理不尽な怒りをぶつけられたりすることも少なくないのですが、ごくたまに、本当に素晴らしい人に出会うんです。自分がもう亡くなりそうだというのに、『先生、少し休んだら』と声をかけてくれた人がいました。今の世の中は、残虐なものや過激な情報がとても多い気がします。人間の闇の部分を描くのは芸術の大事な役目ではありますが、若いうちはまず人に対する信頼感をもつことが大事。僕は、それを取り戻せる物語を若い世代に伝わる言葉で残していきたい。それが変わらないテーマです」

本書もまさしくそんな形で終わる。そして、穏やかな温かいものがいつまでも胸に残る。

PROFILE
夏川草介

なつかわ・そうすけ●1978年大阪府生まれ。信州大学医学部卒業。長野県にて地域医療に従事。
2009年『神様のカルテ』で第10回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。同作は10年本屋大賞第2位となり、三度映像化された。
『本を守ろうとする猫の話』『始まりの木』『臨床の砦』など著書多数。

※この記事は「ゆうゆう」2024年2月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。


取材・文/志賀佳織 

ゆうゆう2024年2月号

「目指せ、一生ボケない暮らし」を大特集。90代でも元気に仕事を続けているエッセイストの海老名香葉子さん、ジャズクラリネット奏者の北村英治さんのお二人に「脳にいい毎日習慣」を教えてもらいました。また、専門家には「認知症との正しい向き合い方」と「ボケを防ぐ眠り方」を取材。老年精神科医の和田秀樹さんは言います。「認知症は誰もがなる病気。むやみに恐れる必要はありません」と。この特集を通して認知症についての理解を深め、できることから認知症対策を始めてみては。
もうひとつのおすすめ企画は「生きる力を与えてくれる『珠玉の言葉』」。鳥居ユキさん(デザイナー)、アンミカさん(モデル、タレント)など、各界で活躍する6名の方に、人生を支え、道しるべとなった「珠玉の言葉」について伺いました。

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