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【虎に翼】「家族会議をします」と言うところは、寅子(伊藤沙莉)らしさとある種の不器用さを感じ、少し笑ってしまう

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田幸和歌子

【虎に翼】「家族会議をします」と言うところは、寅子(伊藤沙莉)らしさとある種の不器用さを感じ、少し笑ってしまう

「虎に翼」第74回より(C)NHK

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1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

★前回はこちら★
【虎に翼】寅子(伊藤沙莉)が穂高(小林薫)を許さなかったのはなぜ?感情の爆発に、どこか親子喧嘩に近いものも感じる

伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の第15週「女房は山の神百石の位?」が放送された。

前週の後半に少しずつ匂わされていた、寅子と優未(竹澤咲子)の親子の気持ちのすれ違い、そして花江(森田望智)親子らも含めた「家族」としてのひずみ。そこに今週は大きな焦点が当てられた。

アメリカでの裁判視察から帰国し、ますます仕事は絶好調、勢いに乗りまくる寅子。英語で書かれた料理の本を「花江なら読めるわよ」と、おみやげとして手渡し、子供たちにもお菓子と英語の本をそれぞれ渡す。元来、自分基準での「正義」、自分が正しいと思うことが正解という性質をもつ寅子である。当たり前だが、世の人は皆寅子ではあるわけがないし、寅子のような力もなければ環境も性質もそれぞれ違う。

家庭という単位でも寅子の考え方が当たり前のようにしていく。寅子=大黒柱でありたくさん働き家にお金を入れる人、優未は自分のように優等生であれ、花江は料理をするなど家の中のことを受け持つ人であれ、寅子の正義は、押しつけられるものになっていた。それが無自覚のモラハラになっていることが厄介だ。

家族ばかりではない。寅子のようになりたくないと陰口をたたいていた修習生たちに「あなたたちは恵まれてるんだから」と、自分たちの苦労を引き合いに出して彼女たちを「スンッ」とさせてしまう。

「虎に翼」第72回より(C)NHK

そんな寅子の姿は、勢いに乗りまくると同時に、調子に乗りまくっているように映る。自分の正義を正解とする寅子には、家族や他人、それぞれの人のもつ「正義」のスケールは目に入ったり考えたりする発想もない、そんなふうに見える。それが一番大きく浮き彫りになるのが、優未と花江、もっとも身近な存在との深い溝である。家裁でさまざまな家族の問題に向き合っていながら自分の家族との関係性が少しずつ崩壊していっていることに気づかない。

強い人、優秀な人は、得てして弱い存在が考えることに気づけないことが多い。たとえ気づいても、自分の基準で考え、なぜできないのかと思うこともある。そして萎縮して「スンッ」とさせてしまう。寅子は家族にも「スンッ」とされる存在になっていた。皮肉な描き方である。よね(土居志央梨)や梅子(平岩紙)、香淑(ハ・ヨンス)ら、女性の法曹会への進出にともに情熱を燃やしたかつての学友たちにしても、再会を果たすもそれぞれあのころのような「仲間」としての友情をすべて取り戻せているわけではなく、一定の壁、「スンッ」があるようにも感じる。

ドラマ前半で描かれた、女性の社会進出に向け壁を乗り越える姿に共感をおぼえたり応援をしていたのに、成功を収めてからは「寅ちゃん、なんか嫌な感じになったな」そんなふうに感じる視聴者も多かったのではないだろうか。取材陣がやってきたときだけロールキャベツをふるまってみせ、「できる主婦」である一面をアピールし、洗い物などはほったらかし。これは相当まずい。

そんな寅子に気付きを与えてくれるだろう存在が、大きな心で寅子を見守り続けた亡き夫の優三(仲野太賀)だったのだろうが、回想シーンで出てくる優三が口にするのは、好きなことに一生懸命になっている寅ちゃんが一番好きだという都合の良い場面であることもまた、タチが悪いような気もする。

「虎に翼」第74回より(C)NHK

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