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【虎に翼】朝ドラとしては異例の尺!実に4分にわたり判決文を読み上げた、原爆裁判の歴史的意義とは?

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田幸和歌子

【虎に翼】朝ドラとしては異例の尺!実に4分にわたり判決文を読み上げた、原爆裁判の歴史的意義とは?

「虎に翼」第111回より(C)NHK

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1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

★前回はこちら★
【虎に翼】実は遠くから見守っていた桂場(松山ケンイチ)。その仏頂面がどう変わっていくか、距離感は変わらずなのか

NHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』で伊藤沙莉が演じる猪爪寅子のモデルとなった、日本初の女性弁護士でのちに判事、裁判所所長となった三淵嘉子さんのキャリアにおいて、最も重要な裁判「原爆裁判」。第23週「始めは処女の如く、後は脱兎の如し?」ではその裁判の様子がじっくりと描かれた。

原爆裁判とは、広島・長崎への原爆投下をめぐり、被爆者たちが国を相手に賠償を求めた裁判だ。日本の歴史上、非常に重要な裁判であろうに、なぜかその後あまり大きな話題とされることもなく、学校などで学ぶ機会もほぼない。おそらくテレビドラマでここまで正面からしっかりと取り上げられたことも初めてだろう。

それゆえに、裁判の内容以前にその裁判の存在そのものも知る人は少ないのではないだろうか。「朝ドラ」という多くの視聴者が存在する番組で、三淵さんの人生を通して原爆裁判という重要な裁判の存在が知られたことは非常に大きな意義を持つ。

作品中で原告代理人をつとめたのは、志なかばでこの世を去った雲野(塚地武雅)の遺志を継ぐようなかたちとなった、轟(戸塚純貴)とよね(土居志央梨)だ。

「意義のある裁判にするぞ」
立場は違えど、そう寅子に告げるよねの言葉からも、気合いのほどがうかがえる。

原告のひとりであるミキ(入山法子)は、かつて美人コンテストで優勝したこともある美貌の持ち主ではあるが、その顔には被爆によるケロイドが残る。
「私が喋れば同情を買えるということでしょ?」

ミキは裁判に勝つための自分の役割をそう理解するが、国を相手どる大きな裁判で矢面に立つのは非常に辛く重い役割である。

そんなミキに、
「声をあげた女にこの社会は容赦無く石を投げてくる。傷つかないなんて無理だ」
と、よねが寄り添い、裁判ではミキの思いが綴られた手紙を轟が代読することとなった。

「助けを求める相手は、国以外に誰がいるのでしょうか」
ミキの手紙の言葉が重く響く。しかし、国に損害賠償を求めることは残念ながら法律上認められないとされる。

ここで、寅子渾身の「はて?」が飛び出す。
「請求棄却の一言で、この裁判を、判決を、終わらせてはいけない。それが我々の総意では?」

寅子の提案によって、判決文に一文が書き加えられることとなり、結審へとのぞむこととなった。

「虎に翼」第112回より(C)NHK

1963(昭和38)年12月7日、東京地方裁判所第十一号法廷。当時の民事裁判では異例だった主文後回しで、裁判長である汐見(平埜生成)が判決文を読み上げる。

「原子爆弾の投下が仮に軍事目標のみをその攻撃対象としていたとしても、その破壊力から無差別爆撃であることは明白であり、当時の国際法から見て違法な戦闘行為である」

しかし、被害を受けた個人には国際法上損害賠償する権利はない。ここまで聞いた記者たちは速報のためいっせいに立ち上がるが、
「人類始まって以来の大規模、かつ強力な破壊力をもつ原子爆弾の投下によって被害を受けた国民に対して心から同情の念を抱かない者はいないであろう」
汐見が続けた言葉に再び着席する。

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