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【光る君へ】わが身に起こったことさえネタにし、物語を書き進める紫式部(吉高由里子)。千年の時を超えるベストセラーの原点があらわに!

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志賀佳織

【光る君へ】わが身に起こったことさえネタにし、物語を書き進める紫式部(吉高由里子)。千年の時を超えるベストセラーの原点があらわに!

大河ドラマ「光る君へ」第34回より ©️NHK

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2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」。『源氏物語』の作者・紫式部のベールに包まれた生涯を、人気脚本家・大石静がどう描くのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第33回「式部誕生」と第34回「目覚め」です。

▼「光る君へ」のレビュー一覧は▼2024年NHK大河ドラマ「光る君へ」レビュー

前回からいよいよ、まひろ(吉高由里子)が紫式部としての頭角を表しはじめ、俄然、その物語を書く筆が進み始めた。まさに「満を持して」、眠っていた才能がぱっと開花する様が感動的だった。

きっかけは左大臣・藤原道長(柄本佑)から「帝(一条天皇/塩野瑛久)に献上する物語を」という依頼だったが、それをまひろが自身の作品として愛し、育てていく変化が見てとれて、揺るがない信念を次第に身に着けていく様子に胸が高鳴ってくるようだった。

今回は、道長の依頼を受けて、まひろが中宮・彰子(見上愛)の暮らす藤壺に上がるところから始まる。寛弘2(1005)年12月29日、出仕したまひろを、彰子に仕える大勢の女房たちが出迎える。身分の高い家の子女たちで構成される彼らにとって、「物語を書くために」召し出されたまひろは、身分も決して高くなく、とにかく異質な存在だ。自分を見つめる冷たい目にまひろも少々たじろいだ。そしていきなり「今日よりそなたを藤式部(とうしきぶ)と呼ぶことにいたす」と名前を授かり面食らいもするが、とにかく藤壺での生活が始まった。

その日、まひろを中納言・藤原公任(きんとう/町田啓太)と中宮大夫・藤原斉信(ただのぶ/金田哲)が訪ねてくる。「ここの女房たちは高貴な姫ばかりなのだが、頼りにならぬ。中宮様の御ために働くという気持ちが薄い。中宮様にお仕え申せと言うても伝わらぬし、言ったことはやらぬ。世間知らずというか鈍いのだ」という二人に、まひろ、ここでチクリとやり返すのである。「私のような地味でつまらぬ女は、己の才を頼みとするしかございませぬ。左大臣様のお心に叶うよう、精一杯励みます」

そうそう、この発言にピンと来る人も多いだろう。打毬(だきゅう)に興じたあと、雨宿りをしていた若き日のこの公卿(くぎょう)たちが、周囲の女性たちを値踏みしている様子を、たまたま居合わせたまひろが聞いてしまったあの第7回。公任はまひろのことを「地味でつまらぬ女」と評していたのだ。まひろはそのことを今になって持ち出したのだ。このあたりのユーモアがなかなかだ。そして、それはまた、彼女の物語の格好のネタになっていくのだ。

そんなふうに始まったまひろの藤壺での生活だが、まひろには書くための局が与えられるものの、傍らをせわしなく行き来する女房たちの気配に、全く集中できず筆が進まない。夜は夜で休もうと思うとあちこちから女房たちのいびきや寝言が聞こえてきて、これまたなかなか寝付けない。まひろも初日から朝寝坊をして、指導役の赤染衛門(あかぞめえもん/凰稀かなめ)に注意されてしまう始末だ。「同僚」の女房たちからは「誰ぞの御御足(おみあし)でもお揉みにいらっしゃったのではないの?」とからかわれもする。きょとんとするまひろは、赤染衛門に「足を揉みに行く」=「夜伽(よとぎ)に召される」ことなのだと教えられて、今さらながら宮中の慣れない風習に驚く。

そんなある日、まひろは彰子の顔を青い布で拭いていた女房に、「それは中宮様の好みの色ではない。中宮様は薄紅色がお好みだ」と他の女房が指摘する様を目撃する。また、嫌いと言われていたあんずを敦康(あつやす)親王(池田旭陽)に渡して二人で楽しそうにしている場面にも接する。彰子の心を、まひろは未だ捉えられずにいる。

大河ドラマ「光る君へ」第33回より ©️NHK

一週間ほど経ったところで、たまらなくなったまひろは、道長に里に戻って物語を執筆したいと願い出る。しかし、道長は納得しない。彰子が一条天皇の寵愛を受けられぬままに時が過ぎ、今や藤原伊周(これちか/三浦翔平)が天皇に取り入っていく様子も肌で感じている道長としては、頼みの綱はまひろの物語だけだ。

「帰ることは許さぬ。お前はわが最後の一手なのだ。藤壺で書け! 書いてくれ。このとおりだ」。頭を下げる道長に、まひろはきっぱりとこう述べる。「物語を書きたいという気持ちに偽りはございません。里で続きを書きます。そして必ずお持ちいたします」

なんとか自分の意思を通したまひろは、里に帰る挨拶のために彰子のもとを訪れる。すると、寒い廊下に立ち外を眺めやる彰子は、ふいにこんな言葉を発したのだ。「私は冬が好き。空の色も好き。私が好きなのは青。空のような」。自分の意思をはっきりと表す彰子を見て、まひろの中には彰子に対する新たな思いが芽生えていく。そして彰子も、まひろにはそのかたい心を開いていくのだった。

大河ドラマ「光る君へ」第33回より ©️NHK

わずか8日で里に戻ったまひろだったが、すぐさま執筆に取り掛かり没頭していく。そして、ある日、続きを道長に渡すべく藤壺に上がる。その旨を伝えつつ挨拶するまひろに、彰子は「帝がお読みになるもの、私も読みたい。帝がお気に召された物語を知りたい」と興味を示す。

まひろは「ではこれまでのところを手短にお話しいたします」とあらすじを語り聞かせ始める。ひととおり聞いたところで彰子はこう尋ねる。「その御子の名は」「あまりにも美しかったので、光る君と呼ばれました」「光る君。その御子は何をするの?」「何をさせてあげましょう」。まひろの笑みが二人の明るい展開を思わせるのだった。

また、道長にその原稿を渡しながら「お許しいただけるなら、改めて藤壺で中宮様の御ために力を尽くしたいと存じます」とも告げて、道長を喜ばせる。そこへ一条天皇が渡ってくる。「あの書きぶりは朕を難じておると思い腹が立った。されど次第にそなたの物語が朕の心にしみいってきた。まことに不思議なことであった。朕のみが読むには惜しい。皆に読ませたい」との言葉にまひろはさらにこう答える。「はい、物語は女子供のものばかりではございませぬ。中宮様にもお読みいただければこのうえなきほまれにございます」

その後、道長から「褒美である」と贈り物が届く。箱を開けてみると扇が入っており、開くとその絵柄は幼き日の道長と自分を思わせる一場面だった。まひろの目には涙がこみ上げてくる。鳥が逃げてしまったと嘆く少女のまひろの姿に、ああそうか、そういう伏線だったのか、これがあの、『源氏物語』の「若紫」につながっていくのだなと唸ってしまうところだ。今やビジネスパートナーになりつつある二人だが、その原点はやはりこの出会いなのだと、改めて印象づけられる場面でもある。

一方、彰子のことで悩みの尽きない道長を政の面でも次々に難題が襲う。ある日、大和より興福寺(こうふくじ)の僧の一団が宮廷に訴えたいことがあるとして大挙して押し寄せる。雅な平安の時代が刻々と変わりつつあることが知らされる。

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