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【光る君へ】天皇に献上する物語を書き始めた紫式部(吉高由里子)。ついに『源氏物語』が始動開始

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志賀佳織

【光る君へ】天皇に献上する物語を書き始めた紫式部(吉高由里子)。ついに『源氏物語』が始動開始

大河ドラマ「光る君へ」第32回より ©️NHK

2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」。『源氏物語』の作者・紫式部のベールに包まれた生涯を、人気脚本家・大石静がどう描くのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第31回「月の下で」と第32回「誰がために書く」です。

▼「光る君へ」のレビュー一覧は▼2024年NHK大河ドラマ「光る君へ」レビュー

気がつけば、オリンピックも終わり、酷暑の夏も終わりを迎えつつあり、大河ドラマの放送も残り3カ月あまりとなってきた。「いつ書くの?」と心待ちにしていたまひろ(吉高由里子)の「紫式部」としての活躍が、ここへ来ていよいよ始まってきた。さぁ、楽しみである。

前回の最後、いきなりまひろの家を訪ねてきた左大臣・藤原道長(柄本佑)。何事かと思えば、まひろが作り、女房たちに聞かせていた『カササギ語り』を読ませてほしいという。「枕草子よりずっと面白いと聞いたゆえ」面白ければ写しを作り、娘である中宮・藤原彰子(あきこ/見上愛)に読ませたいと言うのだ。

まひろが、『カササギ語り』は燃えてしまってもうないのだと告げると、「もう一度書けぬのか」と道長も食い下がって、ならば新しい物語を書いてほしいと頼んでくる。

「そういう気持ちにはなれませぬ。燃えたということは残すほどのものではなかったと思いますので」と断るまひろに、道長は「ならば、中宮様のために新しい物語を書いてくれぬか。帝のお渡りもお召しもなく、寂しく暮らしておられる中宮様をお慰めしたいのだ」

返事を先延ばしにしたまま、まひろはいつもどおり、四条宮での和歌を学ぶ会に出向く。そこであかね(後の和泉式部/泉里香)に改めて、以前聞いた『枕草子』の感想を尋ねてみた。すると、あかねはさほど関心のない様子で、「あまり惹かれなかった」。思わず「それはなにゆえでございますか」と尋ねるまひろに、あかねはこう答えるのだった。「なまめかしさがないもの。『枕草子』は気が利いてはいるけど、人肌のぬくもりがないでしょう? だから胸に食い込んでこないのよ。巧みだなぁと思うだけで」

そして、こんな自作の和歌を聞かせるのだった。「黒髪の乱れも知らずうち伏せばまづ掻(か)きやりし人ぞ恋しき」

その歌に感じ入ったまひろは、あかねから『枕草子』を借りて読みふけった。まひろの脳裏には、「中宮様には影などございません」と言い切ったときの清少納言(ファーストサマーウイカ)の姿がよぎる。あかねの歌、清少納言の『枕草子』、それぞれの「らしさ」を打ち出した書き手たちの姿を浮かべながら、自分は何を書くのか、書くべきなのか、まひろの思いはどんどん深くなっていく。

この、まひろの書き始めるまでの逡巡に、のちの大作家の片鱗が見てとれる、と思うのは私だけだろうか。自らの中で温めて温めて、そうやすやすとは手を出さない。求める作品はもっと言うに言われぬ、深くて壮大なものなのであるがゆえに、何かが「降りて」くるまでにあれこれ考えを巡らすのだ。その様子が前回、今回と非常によく描かれていて、胸に迫ってくる。

まひろは訪ねてきた弟・藤原惟規(のぶのり/高杉真宙)に「私らしさって何?」と聞いてみる。すると惟規に遠慮なく「そういうことをぐだぐだ考えるところが姉上らしいよ。そういうややこしいところ。根が暗くてうっとうしいところ」と言われてしまう。

それを聞いて何かを思い立ったまひろは怒ることもなく立ち去る。そうだ、人とは「影」の部分があってこそなのだ。華やかな楽しいことばかりであるはずがない。その影の部分、苦しみや悲しみを描いてこその私らしさなのではないか。何かまひろの心には芽生えたものがあったのか、道長にこう文を書く。「中宮様をお慰めするための物語、書いてみようと存じます。ついてはふさわしい紙を賜りたく、お願い申し上げます」

まひろの家には、道長自らも赴いて、鮮やかな青い紙に包まれた越前の紙が幾束も届けられた。包からその美しい紙を取り出してため息交じりに眺めるまひろ。「まことによい紙を……ありがとうございます。中宮様をお慰めできるよう、精一杯面白い物語を書きたいと思います」

大河ドラマ「光る君へ」第31回より ©️NHK

まひろはなんとか彰子を慰める物語を書き上げ、道長に見せる。しかし、道長の軽い反応に違和感を覚えてしまう。何か嘘をついているのではと疑うまひろに、道長は、実は物語を献上したいのは一条天皇(塩野瑛久)だと白状する。「『枕草子』にとらわれるあまり、亡き皇后様から解き放たれぬ帝に、『枕草子』を超える書物を献上し、こちらにお目を向けてもらいたかったのだ。されどそれを申せばお前は、私を政の道具にするのかと怒ったであろう」

否定はしないまひろであったが、それでも「一条天皇に献上する物語」を改めて書き直したいと申し出る。そして道長に「帝のことをお教えくださいませ。道長様が間近にご覧になった帝のお姿を、何でもよろしゅうございます、お話しくださいませ」と頼むのだった。ひとしきり話を聞くとまひろはこうつぶやいた。「帝のご乱心も人でおわすからでございましょう」

長い時間をかけて話を聞かせ、聞き、気がつけば夜になっていた。帰ろうとする道長を門のところまで送りに出るまひろ。その二人の頭上には美しい月が輝いていた。「帝の御事を語るつもりがわが家の恥をさらしてしまった。呆れたであろう」と言う道長に、「帝も道長様も皆、お苦しいのですね」と言うまひろ。

「人はなぜ月を見上げるのでしょう」「誰かが今俺が見ている月を一緒に見ていると願いながら、俺は月を見上げてきた。皆、そういう思いで月を見上げているのやもしれぬな」

再び美しい白い紙を前に、思いつくままの言葉を書き出すまひろに、天から色とりどりの紙が降ってくる。この場面の美しさが圧巻である。これまで溜めに溜めていたまひろの思いや考えや人生体験が、この物語ひとつに流れ込んでいくように溢れてきたことがよく伝わってきて、こちらの胸まで躍るようであった。そして、ついにあの有名なはじめの一行が刻まれるのだった。「いづれの御時(おほんとき)にか女御(にょうご)、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに……」

しかし、ひととおり書き上げたまひろのもとを訪れて物語を読んだ道長は、顔を曇らせる。「これは……かえって、帝のご機嫌を損ねるのではなかろうか」。しかし、まひろはきっぱりとこう告げる。「これが私の精一杯にございます。これでだめならこの仕事はここまででございます」。まひろには、もうこの物語こそ自分らしい作品だという揺るがない自信が生まれていたのだろう。

道長は、一抹の不安を覚えながら物語を一条天皇に献上、さほど興味も示さなかった天皇だが、夜、ひとりになったときに、おもむろにページを繰り始める。いよいよ『源氏物語』が独り歩きを始めていくのだった。

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