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【光る君へ】わが身に起こったことさえネタにし、物語を書き進める紫式部(吉高由里子)。千年の時を超えるベストセラーの原点があらわに!

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志賀佳織

そして続く第34回は「目覚め」である。誰の?何の?と思わず聞きたくなるが、まさにそれこそやっとやっと、中宮・彰子の目覚めなのだ。

道長の屋敷を取り囲んだ3000人の武装した僧たちは、大極殿まで押し寄せた。おろおろする女房たちのなか、まひろの機転で、彰子は一条天皇の清涼殿へとかくまわれる。不安げな彰子に、天皇はこう声をかける。「顔を上げよ。そなたは朕の中宮である。こういうときこそ胸をはっておらねばならぬ」

大河ドラマ「光る君へ」第34回より ©️NHK

しかし、いまだこれという進展のない二人の様子に道長は焦燥感を拭えない。まひろに様子を聞いては、「おそれながら、中宮様のお心が帝にお開きにならないと前には進まないと存じます」と返される。「それにはどうすればよいのだ」「どうかお焦りになりませぬように」

ある日、まひろの藤壺での局を彰子が訪れる。人払いをした彰子は、「そなたの物語だが、面白さがわからぬ。男たちの言っていることもわからぬし、光る君が何をしたいのかもわからぬ。帝はそなたの物語のどこに惹かれておいでなのであろう」と訴えてくる。

まひろは戸惑いつつもこう答える。「さあ、帝のお心は計り知れませぬ。されど私の願い、思い、来し方を膨らませて書いた物語が、帝のお考えになることとどこか重なったのやもしれませぬ」。何かが彰子の中で変わりつつあることを感じるまひろに、彰子は「また来てよいか」と言う。「もちろんにございます」

まひろの物語は、公卿や女房たちなど、さまざまな人々に読まれるようになっていく。机の上に置かれ、文鎮で抑えられた原稿がそよ風を受けてパラパラとめくれ、さまざまな場での読書風景に移っていく。このあたりの描き方がまた美しい。こんなふうに風に乗るように、その評判は広まっていき、読み広められていったであろうことがここからよく伝わってくる。とにかくこのドラマが美しいなぁと感じることのひとつに、こうした演出の要素が非常に大きい。

ある日、一条天皇が藤壺にまひろを訪ねてくるとこう聞いた。「なぜそなたはこの物語を書こうと思い立ったのだ」。「お上に献上する物語を書けと左大臣様が仰せになったのでございます。私は物語を書くのが好きでございましたので、光栄なことだと存じ、お引き受けいたしました。されど何が帝のお心を打つか思いつかず、左大臣様に帝のことをあれこれ伺いました。そこから考えた物語にございます。書いているうちに私は帝のお悲しみを肌で感じるようになりました」

すると、天皇はこう述べるのだった。「朕に物怖じせず、ありのままを語るものはめったにおらぬ。されどそなたの物語は朕にまっすぐ語りかけてくる」

宮中で「曲水(ごくすい)の宴」が催されるが、途中雨が降り、中断されてしまう。屋敷で雨宿りした父・道長とその友人たちのざっくばらんで楽しそうな会話を御簾越しに聞いていた彰子は驚く。そんな彰子の変化を繊細に受け止めつつ、まひろはこう言葉をかける。「殿御は皆かわいいものでございます。帝も殿御におわします。さきほどご覧になった公卿たちと、そんなにお変わりないように存じますが。帝のお顔をしっかりご覧になってお話し申し上げなされたらよろしいと存じます」

ここのところ、藤原斉信邸、藤原道綱(みちつな/上地雄輔)邸と立て続けに焼け、敦康親王(渡邉櫂)が病に倒れるなど不吉なことが続いているのを受け、彰子の懐妊も願って、道長は吉野の金峯山(きんぶせん)に、生涯最初で最後の御嶽詣(みたけもうで)に出ることを決意するのだった。

まひろの物語、人を見る目の細やかさ、確かさが、頑なだった中宮彰子の心を溶かしていくのが手にとるようにわかる2回だった。それはまさに物語の力であり、まひろの才能が道長一家を助けていくだろうことが予感されて、二人の結びつきがますます分かちがたいものになっていくのだなと、そこに「大河」のロマンを感じずにはいられない。戦乱を描くだけが歴史ではない。人をどれだけ描けてこそのドラマであり、それこそ物語。光も影も描いて、まひろの物語も、このドラマもますます盛り上がっていくのだろう。


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