【光る君へ】ついに最終回。紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)二人きりの残りわずかな時間が何とも切ない
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志賀佳織
第48回「物語の先に」
そして第48回、最終回「物語の先に」である。
倫子にそう尋ねられたまひろは、一瞬言葉に窮する。「あなたが屋敷に来てから、殿のご様子が何となく変わってしまって」と言う倫子。「いつ頃からそういう仲になったの?」
まひろも意を決して静かに話し始める。「初めてお目にかかったのは9つのときでした。道長様は三郎と名乗っておられました」。川原での出会い、そして道長の兄に母が殺されたこともまひろは語った。
「それなのに、あなた達は結ばれたのね。そうでしょう?」と倫子。「道長様と私が親しくしていた散楽の者が殺されて、二人で葬って、道長様も私も悲しみを分かち合えるのはお互いしかいなかったのです」「彰子は知っているの? あなたはどういう気持ちであの子のそばにいたの。私たち、あなたの掌の上で転がされていたのかしら」と倫子はショックを隠しきれないが、まひろは「そのような」思いはなかったと告げる。「それですべて? 隠し事はもうないかしら」と厳しく問い質す倫子に、「はい」と答えるまひろ。立ち去り際、倫子はこう一言残していく。「このことは、死ぬまで胸にしまったまま生きてください」
ここはこの回の、と言わず、この物語のある意味、最大の山場でもある。ついに倫子は長年胸に抱いていたもやもやした気持ちを正面からまひろにぶつけ、受けたまひろも、逃げも隠れもせず堂々と正直に答えた。その上で、倫子はどうにもならない夫とまひろの結びつきを突きつけられたのだろう。ましてや、娘までまひろに全幅の信頼をおいている。正式に妻となれなかったまひろも悲しいが、妻でありながら夫の本当の心を自らに向けられなかった倫子はもっと悲しい。賢子の言った「誰の人生も幸せではないのですね」という言葉が響いてくるような場面だ。
まひろが帰ったあと、道長は倫子に「藤式部と何を話しておったのだ」と尋ねる。「何ということもございませんわ。とりとめのない昔話」とやり過ごす。そして、末娘である藤原嬉子(よしこ/瀧七海)を東宮・敦良(あつなが)親王に嫁がせることを提案する。「次の帝もそのまた次の帝もわが家からお出ししましょう」。その姿は、まるで、まひろが決して手に入れられない幸せを自分はこういう形で得ているのだと確かめるようで、つくったような笑顔がまた何とも切ないのだった。
嬉子は東宮に嫁ぎ、皇子を産んだが、その2日後、19歳の若さで急逝してしまった。一方、賢子は、道長によって親仁(ちかひと)親王の乳母を任じられていた。女房としては最高の位である。そして、賢子の「女光る君」様の生き方を垣間見るシーンも挟まれる。時代は道長の子どもたちの世となり、世は移り変わっていった。
まひろの屋敷には、ききょう(清少納言/ファーストサマーウイカ)が訪ねてくる。「されど、『枕草子』も『源氏の物語』も一条天皇のお心を揺り動かし、政さえも揺り動かしました。まひろさんも私も大したことを成し遂げたと思いません?」「このような自慢話、誰かに聞かれたら一大事ですわ」と笑い合う二人。今は和やかに過ごすのだった。
万寿四(1027)年11月、病の床に就いた道長は、自ら建立した法成寺(ほうじょうじ)に身を移した。隆家からそのことを聞いたまひろのもとに、追って倫子から呼び出しがかかる。「私は殿のために最後にできることは何かと考えていたら、あなたの顔が浮かんだのよ。殿に会ってやっておくれ。殿とあなたは長い長いご縁でしょう? 頼みます。どうか殿の魂を繋ぎ止めておくれ」。驚きながらも、その思いを受け取ったまひろは道長の病床を訪ねる。
「お方様のお許しが出ましたゆえご安心くださいませ。すべてお話ししました。お心の大きなお方であられます。道長様、お目にかかりとうございました」。そうまひろが言うと、道長は床の中から手を差し伸べる。そして「先に逝くぞ」と言う。
「光る君が死ぬ姿を書かなかったのは、幻がいつまでも続いてほしいと願ったゆえでございます。私が知らないところで道長様がお亡くなりになってしまったら、私は幻を追い続けて狂っていたやも知れませぬ」と涙をこらえて答えるまひろ。
どうやって役作りをしたのだろうと思うほどにやせ衰えた道長の姿が痛々しい。『源氏物語』の「幻」は光る君が登場する最後の巻。タイトルだけが残されて本文がない「雲隠」にはその死去まで書かれていたのではないかという説もあるが、チーフ演出の中島由貴ディレクターが、それについてこう語っている。「もし死を描いてしまったら本当にピリオドを打ってしまう、そうなりたくはないまひろの気持ちが『幻』のまま終えようとした、そんな感じでセリフに落とし込めないかなと思い、大石さんに書いていただきました」
なるほど。つまりまひろにとっての「光る君」は道長だった。その道長の死去をはっきりと書いてしまうことはできなかったから、その手前の幻が続く形にしたかったというのだ。
「俺は一体何をやってきたのだろうか」と自身の反省を振り返る道長にまひろは、「戦のない太平の世を守られました。見事なご治世でありました。それに『源氏の物語』はあなた様なしでは生まれませんでした」と改めて伝えるのだった。
「新しい物語があれば、それを楽しみに生きられるやもしれぬな」と言う道長に、まひろはそれから毎日少しずつ物語を作って語り聞かせる。切ない二人の時間を耐えて尽くすまひろを演じる吉高由里子の演技も、どんどん衰えていく様子を演じる柄本佑の演技も素晴らしく、息を詰めて見守るようなシーンが続いた。
ある朝、倫子が道長のもとを訪れると、左手を伸ばした状態で道長は亡くなっていた。静かに頭を下げる倫子。ちょうどまひろが屋敷でものを書こうとすると「まひろ」と呼びかける道長の声が響いた。同じ日に、道長を慕った行成も亡くなった。
まひろは自分の歌を集めた本を賢子に託し、乙丸とともに、また旅に出る。その途中、武者の一行が通り過ぎる。その一人はあの双寿丸だった。「何にも縛られずに生きたいと思って」と言うまひろに、「東国で戦が始まった。これから朝廷の討伐軍に加わる」と言って双寿丸は去る。
その後ろ姿を見守りつつ、まひろが呟く。「道長様、嵐が来るわ」。そして歩き出したまひろの画像が静止して、そこで物語は終わる。道長が守った太平の世は、まひろたちがその才能を花開かせた文化の世は、戦乱の世へと移り変わろうとしている。その「嵐」を予見させる終わりは、派手な音楽も、ラストシーンらしき盛り上がりもなかったがゆえに、より一層心に残る終わり方となった。
振り返ってみれば、二人の一貫した思い、ともに作りたい世の中、それらが物語のテーマとしても揺るぎなく守られて、説得力をもった48回だったと思う。雅な演出も心憎く、目にも素晴らしかった。とにもかくにも理屈抜きに二人の恋物語としても胸をときめかせて見られた。しばらくはロスになりそうだが、また改めて見返して、じっくり味わいたい。
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