50代のひとり旅は頑張らなくていい——神戸のホテルで味わった“極小の旅”の満足感【岸本葉子さん】
頑張らなくても大満足
突如再スタートしたひとり旅。
部屋に入ってとりあえず荷物を置いたものの、何をしていいかわかりませんでした。まるまる1泊、どのように過ごしてもいい時間を、突如手にしたのです。
「まずは大阪の準備を。すべきことをすませてから」と考えましたが、なかなか頭が回りません。部屋にある案内の類を、ぼうっと眺めます。
神戸の観光としては、北野の異人館、元町の中華街、ポートアイランド、ロープウェイの通っている滝などがあるようです。行くとしたら開館時間、ロープウェイの営業時間などがあるだろうから調べて、バスの時間も調べて、できるだけ多くのところに行ける効率のいい順番を考えて……でも、そのエネルギーがまったくわきません。
段取りを放棄したい。せかせかと動き回ることをしなくていい、したくない。自分の中のそうした願望に、薄々ながら気づきました。
案内によると、ホテルの中にプールがあるようです。水着もレンタルできるとのこと。行ってみることにしました。
上の方の階にある屋内プールで、私の他に誰もいませんでした。おそるおそる水に入り、背中で浮いてみます。無重力になったような、不思議な感じ。
大きな窓の向こうは空。午後の光がまだ充分残っていて、明るい空です。昼間から自分がこんな水の上に寝そべるようにしていることそのものが、信じられない感じです。
プールの底に足をつけて、いちど立って改めて見ます。ガラスから差す光が、エメラルド色の水に網目模様を作って、伸びたり縮んだり。その水に背中から体をあずけ、手足の力を抜いて、ただ漂っていると、いい知れない解放感がわいてきました。
解放感というと、親に申し訳なく、それを言うなら親が子育てをする間、私は親を「束縛」していたことになります。頭ではそう考えても、今、感じている身軽さは、否定しようのないものでした。
こういう時間を、私は持つことができるようになったのだ。人生で担う肩の荷のひとつを下ろしたのだと、実感しました。
日が暮れて、さすがに夕食をとるための行動は起こさないといけません。ホテル内のレストランを覗いてみると、物の割に高そうで、客が多く落ち着かなそうで止めました。街に出てみると、メニューにひかれる店はあるけど疲れそう。
スーパーでそうざいとカップうどんを買って戻りました。
ホテルの部屋に備え付けのポットで湯をわかし、シングルルームの狭いテーブルで「緑のたぬき」をすする。その夕食が、しみじみとおいしかったです。
家族や友人がいっしょだったら、神戸まで来て部屋でカップうどんというわけにいかないだろうけど、人に合わせなくていいのが、ひとり旅の醍醐味です。
窓から目にする港の夜景。船の汽笛が鳴り響けば、神戸の旅情も極まります。
若いときの最初のひとり旅は京都でした。嵐山、貴船、大原といった「これぞ京都市」の観光地を、20代の元気さもあり、「よくもまあ1日で」と思う行動力で回ったものです。
そこまで頑張らなくていい。頑張らなくても充分に満足できるのが、ひとり旅再スタート後の私です。
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