田幸和歌子の「今日も朝ドラ!」
朝ドラ【舞いあがれ!】濃い脇役登場。グイグイくる史子に舞ちゃんは。貴司の行く末を勝手に考えてしまう
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田幸和歌子
そんな史子を「グイグイ女」「ストーカー女」と感じた視聴者は多かった。しかし、モノを書く人、創作活動をする人は、それが若い頃であればなおさら、自分には特別な何かがあるのではないかという拗らせた自意識と、逆に世界中で誰一人理解者がいないんじゃないかというコンプレックスとに苛まれがちだ。自身の内なる世界にばかり目を向けるから、人目も憚らず突っ走り、相手の気持ちは状況などお構いなしに、全力で自分の全てをぶつけてしまう。
それでいて、俗な部分もちゃっかり持ち合わせていて、おそらく貴司が見た目的にも話した感じも好ましい人物だったから、店番をする舞に奥さんかと尋ね、否定されると、本人を目の前にして「良かった」などと露骨に言ってみせたのだろう。なんなら、貴司の一番のファンと言いつつ、一方的に運命まで感じてしまっているかもしれない。
もう一人、貴司の繊細な心に雑に触れてくるのが、担当編集者・リュー北條(川島潤哉)だ。貴司をビジュアル売りするため、髪型や服装を変えさせようとしたり、貴司の短歌について「全体的に淡すぎるんだよな。もっと濃厚な歌が欲しい」と言い、“普通”とは違う人生を歩んで来た貴司に、「絶望や社会への燃え滾るような怒り」「ドロップアウトした若者の心の叫び」を要求するのは、いかにもゲスい。
その一方、本にしろ雑誌にしろ、商業媒体では売るために使えるもの(ビジュアル、年齢、性別、肩書、経歴等)は使うのが常で、それ自体はよくあること。また、“わかりやすさ”を求めるのも当然で、そうでなければ、ごく一部の高尚なインテリ向けの少部数&高単価の本にならざるを得ない。まして短歌集は部数があまり見込めるジャンルでもないだろう。ただし、優秀な編集者の場合、そうした手の内を見せずに、書き手を気持ちよくさせつつ思う方向にコントロールしていくが。
しかし、俗物編集者が望むものは、貴司へのダメ出しに割り込み、口出ししてきた史子が持っている気がする。一方、貴司の良さが出せるのは商業媒体よりも、前・デラシネ店長の八木(又吉直樹)のような自費出版か、同人誌ではないだろうか。超大物漫画家も、週刊連載の傍ら同人誌のほうにより情熱を注いでいた時期があったくらいだし、そうしたやり方もアリではないかなどと、貴司の行く末を勝手に考えてしまう第19週だった。