内野聖陽さんが50代半ばになって思うこと。「若い頃はただがむしゃらだった。 今は力みがとれてきたかも」
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ゆうゆう編集部
真剣に、いい加減に年を重ねて選択肢が増えた
9月に誕生日を迎え、55歳になった。若い頃から変わらない精悍さに円熟という魅力が加わり、吸引力は増す一方だ。内野さん自身は年齢をどうとらえているのだろうか。
「20代から30代前半くらいまでは本当に“がむしゃら”。自分には才能なんかない、というか才能という言葉すら自分の辞書にはなかったから、ひたすらに突き進む感じでした。それが今は、どれだけ力を抜くか、いい加減になるか、そのほうがうまくいくことが多いなあと思うようになって。力みが徐々にとれてきたかもしれません。いろんな失敗を重ねてきたからこそ、いろんな見方ができるようにもなったかな。真理や真実みたいなものがあるとしたら、ひとつの道だけじゃなくていろんな方法でそこに到達しようとする、その選択肢を若い頃よりたくさんもてるようになってきたのではないかと思います」
いい加減=好い加減。決して投げやりではない好い加減を得るためには真剣さが必要だと話す。
「役者はプレーヤーです。プレー=遊ぶ。自由自在に変化するのが僕ら役者の使命なので、そういう状態に自分をもっていくためには、真剣にいろんな考え方ができるということが大事なのかなと思っています。そして、取り組むときは真剣だけれど、どこか体と心はいい加減にゆるく構えておく。そういう部分を自分の中にいっぱい用意して、ここぞと思ったときに出せればいいのかなと。まあ、口ではこんなふうに言っていても、全然うまくはできていないんですけどね。今の自分に満足はしていないから、50代半ばになっても自分に対するいら立ちがあります」
俳優としてのキャリアは約30年。数多くの作品に出演し、日本アカデミー賞や紫綬褒章など華々しい経歴ももつが、俳優という仕事を面白いと感じ長く続けてこられたのは「物足りないから」と自己分析する。
「100点が出せない世界。望めば望んだだけ、時間があればあるだけというような世界で、本当に飽き足らないんです。いつも悔しがっているわけじゃないけれど、『もっとできたじゃん』とか『こうしたらよかったな』とか、自分が自分の監督になり、自分が自分のお客さんにもなって、いくらでもダメ出しできちゃう。だから常に『もっと向上したい』という思いがあるし、だからこそ続けているんだと思います」
役づくり同様、自分自身に対しても妥協を許さない。内野さん、一体どこを目指しているんですか?
「目指すところは……ないですね(笑)。でも、『今が一番いい』と言っているおじいちゃん、おばあちゃんは素敵だなと思います。だから僕も『今の自分が一番好き』と言えるようでありたい。まだまだゴリゴリ向上していきたいし、自分が知らない自分に出会いたいと思っています。そういう意味では今回の春画先生の役どころもなかなか面白い、チャレンジングな出会いでしたね」
新しい役柄への挑戦で、またひとつ新しい扉を開いた内野さん。これから新たに挑戦してみたいことを尋ねると、“合気道”との答えが。
「作用・反作用とか、自然の摂理にかなった動きや力学がけっこう好きなんですよ。僕の勝手なイメージなんだけど、合気道って相手の力を借りて倒すとか、関節技を決めるとか、そういう自然の摂理にかなった武道だと思うんです。だからやってみたいという気持ちがずっとあったんですけど、忙しくてなかなかできなくて……。実は自然の摂理にかなった力の使い方というのは、演技にもあるんですよ。何か通じる部分があるかもしれないから、合気道にチャレンジしてみたいですね」
とことん掘り下げる主義の内野さんのこと、合気道を始めたらやっぱり深掘りしちゃうのでは……。
「うん、やり始めたらハマりそうな気はしますね(笑)」
PROFILE
内野聖陽
うちの・せいよう●1968年、神奈川県生まれ。
早稲田大学在学中に文学座研究所に入所し、93年「街角」でドラマデビュー。96年の映画『(ハル)』で注目を集め、日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以降は映画、ドラマ、舞台など幅広く活躍。
主な出演作に映画『罪の余白』『海難1890』、NHK大河ドラマ「風林火山」、ドラマ「臨場」「JIN–仁–」「きのう何食べた?」など。
INFORMATION
春画の世界に魅せられた師弟コンビの偏愛コメディ
映画『春画先生』
“春画先生”と呼ばれる変わり者の研究者・芳賀一郎(内野聖陽)は、妻に先立たれ、世捨て人のように研究に没頭していた。春野弓子(北香那)はそんな芳賀から春画を学び、その奥深い魅力に心を奪われ、芳賀に恋心を抱くように。やがて芳賀が執筆する『春画大全』を完成させようと躍起になる編集者・辻村(柄本佑)や、芳賀の亡き妻の姉・一葉(安達祐実)の登場により、大波乱が巻き起こり……。
※この記事は「ゆうゆう」2023年11月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。
撮影/Hananojyo ヘア&メイク/佐藤裕子(スタジオAD) スタイリング/中川原 寛(CaNN) 取材・文/本木頼子
ゆうゆう2023年11月号
「健康寿命を延ばす食事と暮らし」を大特集。おしゃれなライフスタイルを発信している柏木由紀子さんと、健康長寿のコツは「3つのショク(食・職・触)」という樋口恵子さんにお話を伺いました。さらに、「ポスト更年期」の女性の体とのつき合い方、体と頭を強くする食事術、健康寿命を延ばす歩き方について、専門家がアドバイスをいたします。いつまでも健やかに暮らすためには、正しい知識と日々の積み重ねが何より大事。「そのうち」ではなく、今日から! この特集をお役立てください。
もう一つの注目企画は「やめて、手放して、ラクに生きる!」。これからの日々を軽やかに有意義に過ごすために、手放す極意をお教えします。
お話を伺ったのは、断捨離提唱者のやましたひでこさん、生活評論家の沖 幸子さん、精神科医のTomyさん。Tomyさんはおっしゃいます「本当に大切なもの以外はなくていい。手放せば手放すほど、心はラクになっていく」と。何を手放し、何を残すか。イメージトレーニングしてみるのもいいですね。