【光る君へ】4年ぶりに再会するも、言葉をかわすことのない紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)。それぞれに進む道で志は空回り
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志賀佳織
2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」。『源氏物語』の作者・紫式部のベールに包まれた生涯を、人気脚本家・大石静がどう描くのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第13回「進むべき道」と第14回「星落ちてなお」です。
前回はこちら。【光る君へ】お互いに本心を口に出せず、歯車が狂い始めた紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)。ついに道長は正妻を取ることに
前回、庚申待(こうしんまち)の夜(庚申の日に神仏を祀って徹夜をする行事)に藤原道長(柄本佑)からいきなり「左大臣家の一の姫に婿入りすることにした」と知らされ、「私は私らしく、自分が生まれてきた意味を探してまいります」と、無理矢理自らの気持ちに決着をつけたまひろ(後の紫式部/吉高由里子)。それから4年の時が流れ、時代は寛和から永祚(えいそ)2(990)年になった。
娘・詮子(あきこ/吉田羊)の産んだ一条天皇(柊木陽太)を即位させて摂政となった藤原兼家(段田安則)は、今や政権の中枢を担っている。この大きな流れの中で、一時はあれほど近く思えたまひろと道長の距離は、今や大きく分かれてしまった。
迎えた第13回「進むべき道」と第14回「星落ちてなお」では、その様子が残酷なほど克明に描かれていく。片や父の出世とともに自らも昇進し、どんどん政の中心に躍り出ていく道長と、父・藤原為時(岸谷五朗)が官職を得られないために困窮を極めていくまひろ。しかし、距離は空いても、同じ視線をもって世の中に働きかけていこうとする、その様子には、ほかの間柄にはない絆を感じずにはいられない。それがますます際立ってきた2話でもあった。
元服(男子が成人になったことを示す儀式)を迎えた一条天皇に、兼家の長男である藤原道隆(井浦新)の娘・藤原定子(さだこ/高畑充希)が入内する。このとき定子が数え14歳、一条天皇は3歳年下だというから、まだまだ幼い夫婦である。ドラマの中でも、お姉さんが弟の遊び相手をしてやっているような子どもっぽい様子に何とも違和感がある。二人の仲はよさそうだが、時折訪ねてくる一条天皇の母・詮子はそんな二人に苛立っているようだ。こういう状況で、摂関政治は隆盛を極めていったのだということがなるほどと理解できる。
そんな宮廷の出来事と距離をおくまひろは、友人のさわ(野村麻純)とともに市に買い物に出かけた際に、人買いが子どもを売り飛ばそうとする場面に遭遇する。見守るうちに、それを体を張って止めようとする子どもらの母親が、文字を読めなかったために証文の内容を取り違えてこの事態になったことがわかってきた。
割って入ろうとしたまひろも人買いに蹴られて、顔に怪我を負う。さわに手当てをしてもらいながら、まひろの心にはひとつの思いが芽生えてきた。「文字さえ読めたら、あんなことにはならなかったのに。文字を教えたい」
その夜、月を見上げながら、今は遠くなった道長に語りかける。「よりよき世の中を求め、あなたは上から政を改めてください。私は民を一人でも二人でも救います」。道長の前で「私は私らしく、自分の生まれてきた意味を」と言ったまひろの探し求める道が、ようやく見えてきた様子に、こちらの心も明るくなる思いがする場面。「世の中をよくする」という共通の思いは、道が違っても互いの心にあるのだということに、改めて切ない思いもしてくる。まひろは、その後出会ったたね(竹澤咲子)という貧しい少女に、文字を教えることを始めたのだった。
そんなとき、権勢を誇る兼家に異変が起きる。公卿(くぎょう)たちが集まる政の席での言動がおかしくなってきたのだ。老いによる衰えを隠せない兼家を、ある日道長は、もう一人の妻・源明子(瀧内公美)を伴い見舞った。源明子の父・源高明(たかあきら)は、かつて藤原氏によって太宰府(だざいふ)に追いやられ、彼の地で無念な死を遂げていた。明子は父の復讐を果たす一念で道長と結婚したのだ。
明子は兼家に、兼家が持っている扇をほしいとねだり、授かる。そして、この扇に向かって兼家への呪詛を始めるのだった。いやぁ、怨念、復讐、呪詛、裏切り、嘘と建前とで、貴族社会はドロドロである。
まひろについて、「父上が官職を得ていないためにお困りの様子」だと聞いた道長の妻・源倫子(ともこ/黒木華)は、道長との間に生まれた娘・藤原彰子(あきこ/森田音初)の指南役を頼みたいと文を出す。受け取ったまひろは土御門殿を訪ねるが、ほかで仕事が決まったために受けられないと嘘をついて断る。
無邪気に残念がる倫子だが、一瞬顔を曇らせると、夫の文箱から見つけたという漢詩の書かれた文を見せる。「これ、殿の部屋で見つけたのだけれど、大切そうに文箱の中に隠してあったの。これ、女の文字ですよね?」。それは、かつてまひろが道長に送った文だった。道長は捨てずにずっと取っておいたのだ。
倫子は、もう一人の妻・明子からの文だと思い込み、「あちらとは文のやりとりがあったのね。殿、私には一通も文をくださらず、いきなり庚申待の夜に訪ねてみえたの、突然」
庚申待の夜といえば、あのまひろと別れたあの日のことだ。さまざまな思いがまひろの頭の中をめぐる。「あの人はこの文を捨てずに土御門殿まで持ってきていたの……」。しかし、そこへ駆け込んでくる道長の娘・彰子。揺れ動く思いは、動かしがたい厳しい事実を突きつけられ、現実に引き戻された。
この倫子が「いい人」であるだけに、そしてその言動に「罪がない」だけに、よけいに切ない。これではこの思いの持っていきようがないじゃないの。ぐっと思いを飲み込むまひろに代わって、そんな文句のひとつも言いたくなってくる。
土御門殿を辞そうとしてまひろは、なんとそこで、帰宅した道長と遭遇してしまう。4年ぶりの邂逅である。一瞬驚き、言葉もないまま見つめ合う二人。しかし道長は目をそらし、まひろも脇に避けて頭を下げ、その場をやり過ごす。