【光る君へ】夫・藤原宣孝(佐々木蔵之介)の突然の訃報に呆然とする紫式部(吉高由里子)。藤原道長(柄本佑)との今後の結びつきは?
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志賀佳織
2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」。『源氏物語』の作者・紫式部のベールに包まれた生涯を、人気脚本家・大石静がどう描くのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第29回「母として」と第30回「つながる言の葉」です。
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2024年NHK大河ドラマ「光る君へ」レビュー
ついに母となったまひろ(後の紫式部/吉高由里子)は、長保3(1001)年の正月を、夫・藤原宣孝(のぶたか/佐々木蔵之介)に物心ともに支えられて穏やかに過ごしていた。と思ったのも束の間、やはりものを書く人のそれが運命なのか、まひろの人生は平穏には進まないのであった。
第29回「母として」と第30回「つながる言の葉」では、まひろが経済的な後ろ盾をなくして追い詰められ、子育てにも悩む中で、いよいよ自分のいちばん得意とする「ものを書く」ということで身を立てていかざるを得なくなる……そんな道のりが描かれる。まるで彼女に筆をもたせるように天が仕向けているとしか思えない状況が展開していくのだ。
まず発端は、越前守を4年務めた父・藤原為時(ためとき/岸谷五朗)が、正月の除目(じもく)で再び任官を望むも叶わず、今回は官職を得ることができなかったことだ。そんなまひろのもとをある日、ききょう(清少納言/ファーストサマーウイカ)が訪ねてくる。皇后・藤原定子(さだこ/高畑充希)を亡くしてから、その遺児の世話をしながら『枕草子』の続きを書いていると話し、持参した『枕草子』をまひろに差し出すのだった。
その場で目を通したまひろは、思ったままこう告げる。「いきいきと弾むようなお書きぶりですわ。ただ、私は皇后様の影の部分も知りたいと思います。人には光もあれば影もあります。人とはそういう生き物なのです。それが複雑であればあるほど魅力があるのです。そういう皇后様のお人となりを……」
すると、ききょうはぴしゃりと遮るのだった。「皇后様に影などはございません。あったとしても書く気はございません。華やかなお姿だけを人々の心の中に残したいのです」
皇后を中心とした後宮のサロンの華やかさの中で生まれた『枕草子』に対し、人間の業をとことんまで書き尽くしたまひろ=紫式部の『源氏物語』の対比が、ここでも明確に伝わるようになってきているのが面白い。真偽のほどはわからないが、華やかな清少納言に対し、紫式部は地味だったという説も聞いたことがある。随筆か物語か、という違いもあるのだろうが、まひろがここで、自分が書くものの方向性をすでに決めているような発言をしているところが伏線としても楽しみだ。
ききょうは左大臣・藤原道長(柄本佑)に対する恨みも述べてまひろを戸惑わせる。そして「左大臣が皇后様のお命を奪った」と言ってはばからない。「まひろ様もだまされてはなりませんよ。左大臣は恐ろしき人にございます」
ある晩、屋敷に宣孝がやってくる。そして「次の官職が決まるまで為時殿はわしが面倒を見るゆえ、好きな学問をしながら越前の疲れをのんびり癒やしていただこう」とまひろを安堵させる。「強気でおれ、強気で。わしはお前に惚れきっておるゆえ、どこにもゆかぬ」
ああ、なんて頼りになる「婿殿」なのだろう。20ぐらい年をとっていたって、この包容力、この経済力、この頼もしさ。娘・賢子(かたこ/永井花奈)のことも、自分の子ではないと知りながら溺愛している。ああ、やっとまひろにも普通の幸せが訪れたのね、と思ったのに、である。翌朝、国守としての任地・山城国へ旅立った宣孝は「それきり戻ってこなかった」と、ナレーションが残酷に言い放つ。
そしてその年の5月、宣孝の北の方(正妻)より使者が訪れてこう告げたのだ。「山城守・藤原宣孝はにわかな病でみまかりました。弔いの儀も済ませましたのでお知らせいたします」。にわかな病とは何かと聞いても教えてもらえない。北の方と妾(しょう)の違いが現実を突きつける。
その知らせはすぐに左大臣・道長の耳にも入る。道長は百舌彦(もずひこ/本多力)を使いに出し伝言を託す。それは、為時に、自身の嫡男・田鶴(たづ/三浦綺羅)の漢籍の指南役を引き受けてほしいというものだった。
一方、その左大臣家では、入内した娘の藤原彰子(あきこ/見上愛)が、まったく一条天皇(塩野瑛久)に顧みられないことを案じた母・源倫子(ともこ/黒木華)が、後宮を少しでも華やかにして一条天皇に足を運んでもらおうと腐心していた。倫子自身も毎日娘のもとに出向いていると知った左大臣は、そんな妻に注意する。しかし、キッと眉を吊り上げて、倫子はこう反論するのだ。「帝のお渡りがないのは私のせいですの? 帝のお渡りがあるよう華やかに御在所を彩るべく知恵を絞っておるのは私でございます!」
娘が顧みられないことが、そしてそんな自分の思いを夫が理解しないことが倫子を苛立たせているのだった。そんなとき、体調を崩していた女院こと藤原詮子(あきこ/吉田羊)が道長に、定子の子である敦康(やすあつ)親王(高橋誠)を「彰子に育てさせなさい」と進言する。戸惑う道長だったが、一条天皇も説得に応じ、敦康親王は、藤壺で彰子と暮らすこととなった。
そんな騒動の裏で、ひとり道長や詮子を恨み呪詛する男がいた。藤原伊周(これちか/三浦翔平)である。一家が崩壊して出世の道も閉ざされ、いまだに官職を得られないままであることをひたすら恨んでいるのだった。ああ、こういう人っているよねと、伊周を見ているとついつい思ってしまう。すべてを周りのせいにして、結局、沼から上がれなくなってしまうタイプ。エリートで打たれ弱い人に多い。まさにこの伊周はエリートだったわけで、その屈折の仕方も尋常ではない。そんな伊周に、ききょうが『枕草子』を差し出し、「宮中で広めてほしい」と述べる。彼の恨みと、定子を崇拝、敬愛していたききょうの恨みが重なると、よくないことが起こりそうな気がするじゃないの! 大丈夫か、道長!
その詮子の40歳を祝う「四十の賀」が土御門殿で執り行われる(きっとこの時代は40歳というと、ものすごい長寿だったのだろうなぁ、しかしまだ40だったのか、女院様と、かすかなショックも受ける)。道長を中心に一同が集まり、道長の嫡妻(正妻)である倫子の息子・田鶴と、もう一人の妻・源明子(瀧内公美)の息子・巌(いわ/渡邉斗翔)はともに舞を披露する中で、詮子が急に苦しみ出し、倒れる。詮子は今際の際に「伊周の位を元に戻してほしい」と頼む。一条天皇と敦康親王のために伊周の怨念を鎮めたいと願ってのことだった。そんな詮子の心も知らず、伊周は『枕草子』を持参して、一条天皇に渡す。詮子は道長に見守られながらこの世を去る。