【おむすび】今週が第1週でもいいのではという意見も。「平凡さ」を描く面白さがようやく浮かび上がってきた
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。平成青春グラフィティ「おむすび」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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永吉(松平健)が神戸行きを激怒する理由にちょっとかわいさを感じた【おむすび】
この週を通して考えた「平凡とは」
橋本環奈主演のNHK連続テレビ小説『おむすび』第8週「さよなら糸島 ただいま神戸」が放送された。副題通り、結は栄養士を目指すための専門学校に通うため(社会人野球選手としての道を大阪で歩み始めた“彼氏”の翔也(佐野勇斗)との距離も近くなるという意味も多少あるかもしれないが)、そして父・聖人(北村有起哉)は神戸の商店街でふたたび理髪店を営むため。もちろん母・愛子(麻生久美子)も一緒に、米田家3人の神戸での新生活がスタートした。
この週を通して考えたことは「平凡とは」ということだ。このドラマの脚本を担当する根本ノンジ氏は、『おむすび』の制作発表にあたり、「歴史に残る偉人の話でなく、我々の身近にいる平凡な人の話にしたい」と語っている。
実際、ドラマ内での現在の結は「平凡な女子高生」というキャラクターであったとは思う。特に大きな夢を抱く少女というわけでなく、ギャルたちに翻弄されたり、書道部に入部してみたり、野球留学をする翔也と淡く恋してみたり、空いた時間に(一時期は専念していたが)家業の農家を手伝ったりしながらも、将来のことはぼんやりとしか考えていない。ごくごく「平凡」だ。
そこには幼いころに体験した阪神淡路大震災の影響や、家を出て行った姉の歩(仲里依紗)と家族との関係など影を落とす部分があったからゆえ波風立てないことを選ぶという理由もあり、ねらいはよくわかる。しかし、それが視聴者に伝わらない部分が多かったことが、一般視聴者の声ばかりでなくそれを拾うネットニュースなどでさらに拡散されることにもつながったことは事実だ。
さて、神戸に帰ってきた米田家。震災前後を描いた過去編にも登場していた「さくら通り商店街」の面々があたたかく迎えてくれ、新生活がスタートする。このご近所さんの商店街の和気あいあい感も、いかにも朝ドラ的な空気で少しなごむ気がする。その和気あいあいを認めない人物(緒方直人)が混じっていたりすることも、安定のバランス感だ。
いっぽう結はといえば、専門学校初日、「博多ギャル魂」を背負って、盛り盛りのギャルメイクとファッションで意気揚々で登校したものの、クラスメートには引かれ、講師陣にも注意される。自己紹介で栄養士を目指す動機を「プロ野球選手を目指す彼氏を支えるため」と言ったことも含め、「なめてんのか?」と、それはごもっともだが、結の予想に反して浮きまくってしまうことに。
派手メイクのラメやつけまつげが少しでも料理に落ちたとしたら、大人数ぶんの料理はすべて作り直しになってしまうと講師が述べた理由も的確だ。
この栄養学校の描き方であるが、帽子のかぶりかたをはじめ、いきなり包丁の研ぎ方から学ぶのはなぜかなど、いろいろ細やかで分かりやすくその道についてのなるほど感が短い尺の中に、余計な描写としてでなく自然に盛り込まれている。そういったところは、「正直不動産」など職業モノで、その世界についての取材や調査で得たのであろう知識を盛り込むことで視聴者を楽しませる根本氏作品らしさが発揮されているような気がした。