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【べらぼう】蔦重(横浜流星)ら吉原の人々が大盛り上がりの「吉原俄」とは?

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鷹橋 忍

平沢常富と恋川春町の関係は?

藩士として出世する一方、平沢常富は「戯作」(げさく)も手がけるようになります。平沢常富は岡山天音さんが演じる恋川春町(本名・倉橋格)と大変親しい間柄でした。恋川春町は、安永4年(1775)に鱗形屋から刊行された『金々先生栄花夢』の作者です。『金々先生栄花夢』は、ドラマにもよく登場していますね。

恋川春町は駿河の小島藩の藩士で、平沢常富と同じく江戸留守居役でした。絵師でもあります。平沢常富は安永6年(1777)43歳のときに、鱗形屋から7冊の黄表紙を刊行していますが、そのうち6冊は恋川春町が挿絵を担当しています(鈴木俊幸『「蔦重版」の世界 江戸庶民は何に熱狂したか』)。こうして、平沢常富は恋川春町とともに、戯作者として名を馳せていきます。

なお、平沢常富の筆名の朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)は、「干せど気散じ」をもじったものでした。「干す」は空腹、「気散じ」は「洒落たもんだね」、「いけねえもんだね」を意味する吉原の遊郭用語で、「武士は食わねど高楊枝」に通うといいます(井上隆明『喜三二戯作本の研究』)。

蔦重と知り合ったきっかけは定かではありませんが、平沢常富は蔦重を大変に気に入ったようです。

平沢常富は恋川春町ともに、鱗形屋の専属的な作家ともいうべき立場でした。ですが、蔦重の専属的な作家のような立場となり、蔦重の出版界での躍進を支えます。蔦重版「吉原細見」の序文の執筆者も、長くつとめました。

大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第12回より ©️NHK

『文武二道万石通』(ぶんぶにどうまんごくとおし)が大ヒットしたものの…

天明8年(1788)54歳のとき、平沢常富は蔦重のもとから『文武二道万石通』を出版します。『文武二道万石通』は鎌倉時代を舞台に設定し、源頼朝(よりとも)が重臣の畠山重忠(しげただ)に命じて諸大名を文武に分け、どちらにも入らない「ぬらくら武士」に、文武の道を精進するように諭すという内容です。

畠山重忠は、前年の天明7年(1787)に老中首座に就任した寺田心が演じる松平定信だとわかるように描かれており、松平定信が主導する寛政改革の文武奨励策への風刺だとされます。

寛政改革に不満を持つ人々多かったようで、『文武二道万石通』は大ヒットするも、松平定信の知るところとなり、平沢常富は国元へ異動になったなどの噂も流れました。ですが、平沢常富が公然と咎められた事実はなかったようです(佐藤至子『蔦屋重三郎の時代 狂歌・戯作・浮世絵の12人』)。

それでも、平沢常富は黄表紙の筆を断ちました。藩の意向だったのかもしれません。その後は、手柄岡持(てがらのおかもち)の名で狂歌に遊び、文化10年(1813)、79歳で人生に幕を下ろしています。

美声の持ち主・富本午之助(うまのすけ)

最後に、寛一郎さんが演じる富本午之助(豊志太夫[とよしだゆう])をご紹介しましょう。

富本午之助は、「浄瑠璃」の流派の一つ・富本節の人気太夫であり、吉原俄の祭りの目玉として招かれました。

宝暦4年(1754年)生まれの富本午之助は、蔦重より4歳年下となります。父は、明和元年(1764)49歳で没した富本節の初代・富本豊前掾(ぶぜんのじょう)です。

幼くして父を失った富本午之助は、亡父の高弟であった富本斎宮太夫(初代)らの指導・後見を受け、修業に励みました。明和3年(1766)、数えで13歳のときに午之助は亡父の三回忌追善として初舞台を踏みます。

面長のため、「馬づら豊前」の異名で親しまれた富本午之助は、天性の美声の持ち主のうえに節回しも巧みでした。安永(1772~1781)の中頃には人気が急上昇し、安永6年(1777)には「富本豊前(ぶぜん)太夫」を襲名します。

蔦重は富本午之助の富本豊前大夫襲名とともに、専属出版の関係を築きました(鈴木俊幸『蔦屋重三郎』)。蔦重28歳、午之助24歳のときのことです。こうして蔦重は、富本節の正本(音曲の詞章を記した本)と稽古本(節付けがなされた稽古用の本)の発行を手がけていきます。

富本節は、富本午之助のもと全盛時代を迎えました。富本節の人気の高まりとともに、正本や稽古本の需要も高まり、大量の部数が売れたと考えられています(鈴木俊幸『本の江戸文化講義 蔦屋重三郎と本屋の時代』)。

富本午之助は文政5年(1822)に69歳で没し、以後、富本節は衰退の道を歩むことになります。

大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第11回より ©️NHK

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