78歳・ひとり暮らしの【由紀さおりさん】「コスパ、タイパばかりでは大事なものを見失ってしまいます」
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ゆうゆう編集部
デビューから56年、歌手として、俳優、コメディエンヌとしても、ますます大活躍の由紀さおりさん。現在はひとり暮らしをしながら、事務所の代表として経営管理もする日々。何を整理して何を残すのか、その哲学を聞きました。
PROFILE
由紀さおりさん 歌手
ゆき・さおり●1946年群馬県生まれ。
童謡歌手を経て69年「夜明けのスキャット」でデビュー、150万枚の大ヒットを記録し国民的歌手に。
俳優として映画、ドラマ、バラエティなどでも多彩に活躍。
2011年芸術選奨文部科学大臣賞受賞、12年紫綬褒章、19年旭日小綬章受章。
徹底的な整理はなかなかできない
童謡歌手としてそのキャリアをスタートし、その後「夜明けのスキャット」「手紙」など、歌謡曲の歌手としても数々の大ヒット曲を世に送り出してきた由紀さおりさん。2011年にはアメリカのジャズオーケストラ・Pink Martiniとのコラボレーション・アルバム『1969』が世界50カ国以上で発売・配信されたことでも話題を呼んだ。そして姉・安田祥子さんとの童謡コンサートは初演から今年で40年を迎える。さらに最近は三味線で都々逸を弾き唄いするなど、その手がけるジャンルの幅広さには改めて驚かされる。さらに俳優としての活躍も多くの知るところで、最近では、小泉今日子さん、小林聡美さん主演のNHKドラマ「団地のふたり」での演技も好評を博した。
ますます大活躍の由紀さんだが、これに加えて事務所の管理も自ら行っているというから驚くばかりだ。
「今日自分が何に使ったか出金伝票に書いて、ひと月まとめて帳面をつけ経理の人に持っていきますし、衣装や靴を管理して現場に持っていって、また元に戻すのも自分。基本的にはすべて一人でやります。いや、きついですよ(笑)。きついけれども、母が私のためにつくってくれた個人事務所なので、私が辞めるときに閉じたいから私にやらせてほしいと頼んだんです。ただ、私はひとり暮らしなので、兄や姉に心配や負担をかけないように、今後を考え少しずつですが、整理は進めています」
とはいえ、何でもかんでも終活に向けて整理整頓……という風潮にはなじめない。昨年11月に引っ越しをしたが、まだ整理できていないものがたくさんある。
「持ち物を極力減らして暮らすことで身軽になる方もいらっしゃいますが、私はなかなかできない。やりたい仕事がまだまだあって、それに伴って、今日はこの色の服を着たい、まだ7センチのヒールは履きたい、その日その日の自分の装いを考えることも気持ちの華やぎや張りになって、そうするとものはどんどん増えてしまうんです。わが家は歌うために設えている、という感じなんですね。資料が届いたらそれをすべて並べ、これを覚えて、次はこれを……と仕事を最優先にしているので。離婚を二度経験していてその意味では『身軽』なんですが、それはそれぞれが自分の歩む道を選んだ結果です。だから、進んだ道で人生を全うしないと、ともに暮らしてくれた人に対して失礼になる。そう思ってからは仕事にも暮らし方に対しても向き合い方が変わりました」
歌からドラマが失われていく時代に
何かというと「タイムパフォーマンス」「コストパフォーマンス」と時短、効率、無駄の削減を求める時代。しかし音楽の世界にも押し寄せてきたその波に由紀さんは抵抗を覚えずにはいられないという。
「最近は音楽の作られ方が全く変わってきて、コンピューターでのリズム主体の作品ばかりがもてはやされるようになりました。結果、日本語のアクセントも違うし、歌詞にも物語がなくなってしまいました。1コーラス目から2コーラス目にかけて主人公がどういう喜びや悲しみを経験して変化していくか、そのドラマを私たちは味わいたいと思うんだけれども、今の若い人たちは長いのが我慢ならない。ピンポイントで『好き』だとか『離さない』などの歌詞に感動してそこだけを繰り返す。でも、それでは情緒は育たないですよね。それが失われていくのは悲しいことだと思います」
この夏、親交のあったポール・モーリアさんの生誕100周年を記念するコンサートが開催される。
「彼の曲はとてもメロディアスで旋律がきれい。今の時代にこうした音楽が復活してくれることはすごく嬉しいですね。音楽って刺激するばかりじゃない。もっとソフトで楽に歌って心地いいものもあっていいはずなんです。それを皆さんに知っていただきたいです」
自身も「昭和100年」を記念して、昭和初期の名曲を歌ったミニアルバムを発売する。
「昭和歌謡というと、80年代の曲を指す人が多い。でも、もっと初期にも名曲がたくさんあります。今この時代にまだ歌わせていただけている私としては、やはり先輩たちの歌の豊かな世界を歌い切っていきたいんです」
暮らしのさまざまな場面から「人の手触り」が消えがちな今、残すべきものと手放していいものは見極めたい。そして人生100年を目指して、まだまだ旅は続く。
「いずれは三味線ひとつで100人ほどのお客さまに向けて、面白おかしいステージをお届けできれば。それを楽しみに頑張ります」
【INFORMATION】生誕100周年 ポール・モーリア“ラヴ・サウンズ”オーケストラ
ポール・モーリアの生誕100周年を記念して、そのオーケストラによる華麗なるサウンドが日本で蘇ります。
7月31日(木)、8月1日(金) 東京国際フォーラム ホールA
8月17日(日) 大阪フェスティバルホール
指揮:佐々木新平
※ポール・モーリア“ラヴ・サウンズ”オーケストラへの由紀さおりさんの出演はありません。
【INFORMATION】昭和初期の名曲を歌うニューアルバム 由紀さおり『SHOW(昭)TIME!』
由紀さおりさんが、昭和初期の大ヒット曲を「2025年の最新アレンジ」で歌うミニアルバムが5月28日に発売。「東京ラプソディ」「月がとっても青いから」など名曲のメロディをスーパー・セッションで楽しんで!
2800円/ユニバーサル ミュージック
撮影/山田崇博
ヘア&メイク/徳田郁子
取材・文/志賀佳織
※この記事は「ゆうゆう」2025年6月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。
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