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【大泉洋さん&東村アキコさん】「どうしても大泉さんに演じてほしくて三度オファーして実現した」映画とは?

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ゆうゆう編集部

ヒット作を生み出し続ける漫画家・東村アキコさんが描いた自叙伝的作品『かくかくしかじか』がこのたびついに映画化。東村さんに9年間にわたって絵画を教えたスパルタ恩師役を、東村さんたっての願いで大泉洋さんが演じることに。原作者と主演俳優として、あうんの呼吸で作品に臨んだ二人に、撮影中のエピソード、今作に込めた思いを伺いました。

PROFILE
大泉洋さん 俳優

おおいずみ・よう●1973年4月3日生まれ。北海道出身。
演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー。
北海道テレビ制作のバラエティ番組「水曜どうでしょう」への出演後、数多くの映画・テレビ・舞台作品で活躍。
映画『探偵はBARにいる』(2011年)、『駆込み女と駆出し男』(15年)、『探偵はBARにいる3』(17年)、『月の満ち欠け』(22年)で、それぞれ日本アカデミー賞優秀主演男優賞を、『こんにちは、母さん』(23年)では日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞した。

PROFILE
東村アキコさん 漫画家

ひがしむら・あきこ●1975年宮崎県生まれ。
99年『フルーツこうもり』で漫画家デビュー。
2007年『ママはテンパリスト』が100万部を超える大ヒットに。
『海月姫』で第34回講談社漫画賞少女部門を受賞。15年『かくかくしかじか』で第8回マンガ大賞、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞。

恩師への懺悔の気持ちで描いた漫画が映画化

『海月姫』『東京タラレバ娘』など、ドラマ化もされたヒット作品を次々と世に送り出してきた漫画家の東村アキコさん。その東村さんが、自身の半生を描いて第8回マンガ大賞を受賞した傑作『かくかくしかじか』が、このたび映画化されることになった。漫画家を志す宮崎の高校生・明子が、ひょんなことから入った絵画塾で出会ったスパルタ絵画教師・日高。その出会いからともに過ごした9年間を描いた作品だ。

美大を目指す明子だが、本当になりたいものは漫画家である。だが、それを日高には言い出せない。日高は明子が画家の道を行くと信じて疑わず、明子が美大に進んだ後も、事あるごとに情熱をもった指導をしてくる。嘘をつき続ける明子は、日高の指導が熱心になればなるほど、距離を取ってしまうようになる。

「これは私の恩師の思い出を描いた実話なのですが、そこに思いを馳せるたび、本当に思い出したくない後悔ばかりが込み上げてくる。私だけでなく、そうした、昔お世話になった人に不義理をした経験って皆さんあると思うんです。そこを振り返るのはつらいんですけど、当時の弟子仲間の後輩に『あんなすごい人いなかったでしょう。東村先生が描いて残してください』と言われてしまって。懺悔の気持ちで描きました」

結果、東村さんの作品の中でも特に名作の呼び声高いものが生まれたわけだが、それでも、長らく映画化の話は断り続けてきたという。

「舞台が宮崎、金沢、東京と3カ所にわたりますし、絵もたくさん登場する。登場人物は宮崎弁だし、映像化は難しいだろうと思ったんです。でも今回、永野芽郁ちゃんが主演だと聞いて、こんなにうまい魅力的な女優さんに演じてもらえるなら観てみたいなと思ってお受けしました」

このとき東村さんがぜひにと出した条件が、「日高先生は大泉洋さんで」というものだった。そのことを大泉さんが振り返る。

「大変ありがたいお話だとは思ったんですけど、最初はスケジュールが空いてなくてお断りさせていただいたんです。一度お断りをさせていただいたのに『また来たの?』って感じでオファーされてくる(笑)」

すると東村さんがすかさず、「3回ぐらい断られましたよね。粘りました(笑)」と笑ってつけ加える。

「ええ、ええ、断るにつけさらに強い熱量で説得してこられる。最終的には熱いコメント入りのきれいな色紙が届きまして(笑)、ここまで求めていただける現場で仕事ができるのは、やはりありがたいことだなと思ってやらせていただきました」

そこまで大泉さんを求めた理由を東村さんはこう話す。

「日高先生は怖いんですけど、怖いだけではなくて、どこかクスッと笑っちゃうような面白みがないとダメなキャラクターです。それができるのは大泉さんしかいない。おかしみが入っているからこその悲しみってありますよね。笑っているんだけど涙がにじんでしまうような。それがこの映画では実現できた。大泉さんだから生まれた感動があったと思います」

東村さんの記憶に沿って大泉さんは役づくりを

今回、実体験を描くに当たって、東村さんは、脚本の宮崎弁部分などを担当したり、美大時代の先輩に絵を描いてもらったりと、その「再現性」に心を尽くしたという。撮影現場にも本業を休んで連日詰めていた。結果、大泉さんも、普段とは一味違う方法で役づくりに臨むこととなった。

「珍しいパターンでね、私が『このとき日高先生はどうだったんですか』『これはどんなふうに言われたんですか』と東村先生に聞くわけです。すると『あー、そっちからヤクザみたいな格好でやってきて』と、すべて教えてくださる。こんなに原作者がずっといる現場、見たことないですから(笑)。自分なりに事前に考えてくる人物像もありましたよ。でも聞くと違うことが多いんですよ。『なるほどそうなのね!』って、目からウロコの1カ月でしたね」

しかし撮影現場を訪ねてきた日高先生を知る人の誰もが、大泉さんの演技を見て「先生が生きているみたいです」と涙したというから、大泉さんと東村さんの「協働」は成功したのだろう。スパルタな声色、ジャージと竹刀姿に、東村さんは「来た、来た!」と膝を打ったそうだ。

宮崎でのロケの合間に大泉さんは、その日高先生のお墓参りにも行ったという。雨で午後は撮影中止になった日があり、ずっと睡眠不足だった東村さんは、「これで3時間寝られる!」と実家に車を走らせると、着いたところで大泉さんから電話が。

「『先生、お墓参りに行きたいんですけど。もう今日しか行けませんよ』って言うんです。『あー、じゃあ行きます?』って(笑)。でも私はお墓の場所を知らなかったから、日高先生の弟子のゴトウくんに連絡して、『どこね墓地は? 知っちょる? 案内ばせんね』と仕事中なのに呼び出して連れていってもらったんです」

「東村先生は『何か、こぢんまりしたところらしいです』って言うのに、着いてみたら山一つ墓地みたいな広大な墓苑(笑)。しかもゴトウさんも場所をよく知らなかったんですよ。白い墓石に黒い文字だっていうからそれを探していたら、結局、黒い墓石に白い文字だった。もう『あんた、行ったことあるんでないのかい!』みたいな(笑)」

「宮崎人って、いい加減だから」

「でもねぇ、すごかったのは宮崎での東村先生の影響力ですよ。どこ行ったって、『ああ、大泉さん、これイトコの……』とか『これはハトコの……』とか、もうこの街は全部東村家なのかと思いましたよ。お知り合いのいるお店でお刺し身をいただいたときも、舟盛りの舟は人が乗れるほどの大きさでしたからね(笑)」

と、二人の会話はまるで漫才のようなかけ合いで笑わせられどおし。チームの雰囲気のよさも伝わってくる。

大泉さんは今作の魅力をこう伝える。

「東村先生と日高先生の関係とはまた違いますが、僕にも人に不義理をしたという過去の痛みはある。活動をTEAM NACSに絞るしかないねとなったときに、それまで所属していた劇団を辞めざるをえなくて、この原作を読むと、それが思い出されたりもします。そういうチクッとした胸の痛みというのは、誰にでもあると思うんです。そこに何かしらを届けてくれる作品になっていると思います」

東村さんは、ゆうゆう世代にこそ観てほしい作品だと訴える。

「宮崎の自然や金沢の雪景色など、映像がまず素晴らしくて、古きよき日本映画の匂いがします。昔の傷に立ち返るのはつらい。でも、その痛みを知る、この世代だからこそ響くものもあると思うんです。絶対、後悔させませんので、ぜひ劇場でご覧いただけたらと思います」

【INFORMATION】東村アキコ自叙伝的漫画が実写映画化『かくかくしかじか』

『ママはテンパリスト』『東京タラレバ娘』など多数のヒット作を生み出した、漫画家・東村アキコの自叙伝的作品。描かれるのは、漫画家を夢見る高校生・明子の人生を変えた最恐の絵画教師・日高先生との出会いからの9年間。東村さんの生まれ故郷の宮崎をはじめ、金沢、東京3つの街を舞台に二人の物語が紡がれる。

●出演/永野芽郁、大泉 洋 他 
●原作・脚本/東村アキコ 
●監督/関 和亮
5月16日(金)公開 配給/ワーナー・ブラザース映画

©︎東村アキコ/集英社 ©2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会 

※原作者名は、アキコですが、劇中の主人公は明子になります。

撮影/中村彰男 
スタイリング/勝見宜人(Koa Hole inc.)
ヘア&メイク/ 白石義人(ima.)
取材・文/志賀佳織

※この記事は「ゆうゆう」2025年6月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

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