【大地真央さん】初舞台を踏んでから50年超え!「順調だったりつまずいたり。そんな人間くささを大事にしたい」
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ゆうゆう編集部
ロマンティックなミュージカルで憧れのヒロインを演じたかと思えば、コメディエンヌとしての才能を遺憾なく発揮して「オバハン」を好演。さまざまな顔で楽しませてくれる大地真央さんの次の挑戦は映画初主演。新たな役に挑む今の気持ちを聞きました。
PROFILE
大地真央さん 女優
だいち・まお●兵庫県生まれ。
1973年宝塚歌劇団に入団、82年月組トップスターに。85年の退団後は、女優として舞台を中心に幅広い分野で活躍。
主演代表作に舞台『マイ・フェア・レディ』『ローマの休日』『ふるあめりかに袖はぬらさじ』、ドラマ「最高のオバハン 中島ハルコ」など。
SNSに投稿する「目玉焼きオリジナルアート写真」が話題になり、2021年には個展を開催。
菊田一夫演劇大賞、文化庁芸術祭賞大賞、松尾芸能賞・演劇優秀賞など受賞多数。
豪快だけど温かい、男っぽいけど少女のよう。そんなゴッドマザーを演じます
一昨年、初舞台から50年を迎えた大地真央さん。宝塚を離れたあとも、『風と共に去りぬ』『マイ・フェア・レディ』『ローマの休日』など、数々の華やかな舞台で主役を務めては、私たちを楽しませてきてくれた。しかしながら、映画では意外にも今回が初主演だという。その作品とは『ゴッドマザー~コシノアヤコの生涯~』だ。ちょうど先日まで再放送されていたNHK連続テレビ小説「カーネーション」のモデルにもなった、日本のデザイナーの草分け、コシノアヤコさんの生涯を描いたもので、大地さんはそのアヤコさんを演じている。
ご存じのように、アヤコさんは世界を舞台に活躍するデザイナー、コシノヒロコ、コシノジュンコ、コシノミチコ三姉妹の母でもある。それぞれを演じる黒谷友香さん、鈴木砂羽さん、水上京香さんと写っているポスターのヴィジュアルは、一瞬、ご本人たちかと見紛うほどソックリでハッとする。
「お話をいただいたときは、あの素晴らしい三姉妹のお母さま役を私が演じるなんておこがましいなと思ったんです。そのうえ、15歳から92歳までを一人で演じるという。大丈夫かなと不安でした。でも約120分という時間の中で、あのアヤコさんの人生を全部生きられるということはすごく光栄なことですし、資料を読ませていただくほど、とても魅力的な方だということがわかってきた。スケールが大きくて豪快でありながらすごく温かくて、男っぽいんだけれども、少女みたいな一面があって。そのお人柄がとにかく魅力的で、一所懸命やらせていただこうと心を決めました」
映画はアヤコさんの危篤の場面から始まる。あの世からお迎えに来た天使に審判されるアヤコさんが、今一度、自身の生涯を振り返っていくことで物語が展開していくのだ。
「一旦やるとなったら楽しかったです(笑)。エピソード集にはしたくなかったので、アヤコさんの心情を追うことを軸にしたら、戦前戦中戦後とどんどん世の中も変わり、周りも変わっていく中で、それでも変わらない芯の強さや、どんなにつらくてもどこかに笑いのオチがある、そんな関西のノリ、非常に前向きなバイタリティなどが見えてきました。放任主義のようでいて、子どもたち一人ひとりの個性に合わせたアヤコさん流の愛情のかけ方も見事。だからこそ、世界的に活躍するあの三姉妹が生まれ育ったのだなと納得できました」
お饅頭で結ばれたコシノアヤコさんとの縁
生前のアヤコさんとの面識はなかった大地さんだが、撮影中に意外な「ご縁」で結ばれていることを知って驚いたという。
「私の母の母、私の祖母が福島県郡山市の出身なのですが、そこで遠縁の親戚がお饅頭を作っていると聞いたことがあったんです。撮影初日に、アヤコさんの大好物だったというお饅頭の差し入れがあったんです。それがどうも聞いているお饅頭のような気がする。『確かこれうちの親戚のお店じゃないかと思います』とお話ししたら、驚かれてお店に聞いてくださったらしいんです。そうしたら『親戚です』と言われたと。もうびっくりして『無事演じられるようにお守りください』とアヤコさんに祈っちゃいました」
修業時代を支えてくれた両親の愛情
実は大地さん自身も三姉妹の末っ子。二人の姉とはそれぞれ11歳、9歳と年が離れていたこともあり、両親からは末っ子ならではの愛情を受けて育った。
「母は専業主婦でしたが、料理が上手で、和裁、洋裁もできましたね。民謡が好きで、親戚が集まる場なんかで歌ったりもしていました。私は中学卒業後、すぐに宝塚音楽学校に入ってしまったので、親としてはいつも心配だったと思います。手紙をよくくれましたし、何かというと宝塚まで来てくれました。私もすみれ寮にあるピンク電話で毎日のように電話をしていました。でも心配をかけちゃいけないと思って、いいことだけを言うようにしていた気がします」
それでも一人前になるまでは苦労もあった。お給料も少なくて親がかり。雑誌の表紙撮影で着物が要るとなったときは、母が慌てて呉服屋さんで振り袖を仕立てて届けてくれたりもした。
「そんな行動力はアヤコさんに似ているかもしれませんね。父は3人目に男の子を期待していたようで、だから私が男役で舞台に立つようになると嬉しかったみたいです。最初こそ反対されましたが、母も華やかな舞台が大好きで、歌劇団に入団後は応援してくれました」
泣いたり笑ったり、人間味を忘れずに演じたい
このコシノアヤコ役もしかりだが、大地さんのもうひとつの当たり役であるドラマ「最高のオバハン 中島ハルコ」のハルコも、そして「そこに愛はあるんか?」という問いかけが大人気のテレビCMのおかみさんも、大地さんが演じる役にはどこか笑いがあり、笑いだけでなく涙があり、見る側に何かを投げかけて終わりというだけではなく、包み込んでくれるような温かさがある。それは、大地さんが育った過程で受けてきた愛情がきちんとあるからこそと、話を伺っていて見えてきた。どこか、コシノ三姉妹にも通じる「愛情の根っこ」のようなものが感じられるのだ。
「人って泣いたり笑ったり順調だったりつまずいたり、一人の中にいくつもあるでしょう? そういう人間くささは大事にしたいといつも思っています」
今やるべきことに真摯に向き合い、できる限りのことをやる。その繰り返しで、振り返ったら50年
変わらない美しさとプロポーション、この先60周年、70周年も期待したいところ。
「あまり遠い目標は考えていないんです。今やるべきことに真摯に向き合い、自分ができる限りのことを繰り返していたらいつの間にか50年経っていた、というのが実感です。これからもそれは変わらないと思います。お客さまが笑ったり泣いたりして『私も頑張ろう』とか『活力源になったわ』と思っていただけると嬉しい。それを心に刻んでいきたいと思います」
INFORMATION 『ゴッドマザー~コシノアヤコの生涯~』
日本のファッション界に革命を起こした、デザイナーの草分け的存在・コシノアヤコ。その笑いと涙に彩られた激動の生涯を、本作が映画初主演の大地真央が演じる。世界的デザイナーとなった娘たち─ヒロコ、ジュンコ、ミチコ─を含めた一家のリアルなヴィジュアルにも注目!
監督・撮影・編集/曽根 剛
出演/大地真央、黒谷友香、鈴木砂羽、水上京香、温水洋一、木村祐一、市川右團次 他
5月23日(金)より新宿ピカデリー 他 全国公開
配給/日活、東京テアトル
©「ゴッドマザー~コシノアヤコの生涯~」製作委員会
撮影/富田眞光(vale.)
スタイリング/後藤仁子
ヘア&メイク/猪狩友介(Three PEACE)
取材・文/志賀佳織
※この記事は「ゆうゆう」2025年6月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。
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