【光る君へ】ついに結ばれる紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)。それでも夫婦になれない二人の今後は?
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志賀佳織
そして第10回「月夜の陰謀」では、いよいよ兼家が、息子たち藤原道隆(井浦新)、道兼、道長と、外腹の藤原道綱(上地雄輔)を巻き込んで、6月23日に花山天皇を退位させるクーデターを実行する。晴明からこの日の丑の刻から寅の刻(午前1時頃~5時頃)までが運気隆盛で、この機を逃すと災いが降りかかると告げられていたためだ。
一方で、道長はまひろに古今和歌集の一首を記して文を出し、まひろへの恋心を抑えられないと告げてくる。それに対し、返歌ではなく漢詩で応じるまひろ。混乱した道長が友人の藤原行成(ゆきなり/渡辺大知)に相談するくだりは、ちょっとかわいくて笑えた。
しかし、行成の答えには「おおっ、そうなのか」と目からウロコが落ちるように納得した。いわく「漢詩を送るということは、送り手はなんらかの志を託しているのではないでしょうか」。それを受けた道長は、今度は漢詩で返す。「我亦欲相見君」(あなたに再び会いたい)。
二人は廃邸で会い、結ばれる。このときの月夜の映像のなんと美しいこと。さながら平安絵巻、「源氏物語」の一場面のようで、ほら、大河ドラマって戦闘シーンだけじゃないでしょ! と再確認した思いだった。
美しいのは、二人が絶対夫婦にはなれない立場であるという切なさがあるからでもある。二人で「遠い国」へ行こうと言う道長。「藤原は捨てる」と言う道長にまひろはこう答える。
「あなたが偉くならなければ、直秀のような無残な死に方をする人は、なくならないわ」
「道長様が好き。すごく好きです。でも、あなたの使命は、違うところにあると思います」
それでも二人で「一緒に都を出よう」と説く道長。しかし、あくまでも首を縦に振らないまひろ。
「私は都であなたを見つめ続けます。誰よりもいとおしい道長様が、政によって、この国を変えてゆくさまを、死ぬまで見つめ続けます」
父の恐ろしい企みの前に、これから自らが生きていく社会の深い闇を知った道長だけに、体と心がバラバラになりそうなのだろう。生きていくには、今いる場所で「出世」していくしかない。しかし「出世」するには、手を汚さねばならぬこともある。まさに今取り掛かろうとしている花山天皇への騙し討ちがそうではないか。この都にいる限り、まひろとも一緒になれない。俺だっていっそ「遠い国」に行きたいんだ。そんな道長の葛藤や苦しみがあふれて、とにかく胸が痛む。それを必死に押し止めるまひろの健気さにも泣けてくる。
結局、道長は父に命じられた役割を忠実に果たし、道隆と通綱が、天皇の寝所から帝位の象徴である剣璽(けんじ)を東宮・懐仁(やすひと)親王(高木波瑠)のもとへ運んだことを確認すると、関白・藤原頼忠(橋爪淳)のもとへ馳せ参じ、花山天皇が退位し東宮が即位したと知らせる。翌朝、内裏に出向いた兼家は、自らが新天皇の摂政であり、蔵人頭には道兼を置くと宣言する。
権力を持つ者と持たざる者の「宿命」が残酷なほど鮮やかに描かれた第9回、10回。やがて権力の中枢に上り詰めていく道長の本心の柔らかな部分と、社会で戦い抜いていくための姿の萌芽が繊細に描写されていて、印象に残る2回だった。次回もますます楽しみ!
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