【中島京子さんの最新作】50代シングル女性が人生の変化をどう受け止めて生きるのか?『うらはぐさ風土記』
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ゆうゆう編集部
どんな土地でも掘り下げると何らかの歴史にたどり着く
沙希はやがて、のどかな「うらはぐさ」にも再開発の波が押し寄せていることを知る。
「都心だけでなく、日本中あちらこちらで再開発が進められていますよね。それは私が住んでいる町も同じ。すごく素敵だった場所に、どこにでもあるようなショッピングモールができちゃったりすると、『何でこんなに変わっちゃうの⁉』みたいな寂しさがあります。もちろん、何も変わらずにはいられません。でも、残そうと思って残さないと、大事なものがなくなってしまうという現実があります。何を残そうとするかは切実な問題だと思います」
戦時中には特攻隊の飛ぶ飛行場、その後は米軍の家族たちが住んでいて、それから住宅地になったという場所もある「うらはぐさ」。
「土地も人間と同じで、過去が連なって今となり、そして未来へとつながっていきます」
一風変わった人たちとおいしそうな食べ物のこと
沙希が出会う人々は個性的で一風変わっているが、とてもキュートだ。庭の手入れをしてくれる76歳の秋葉原さんと、その妻の真弓さんは3年前に結婚したばかり。沙希が勤める大学の学生で敬語の使い方がへんてこな亀田マサミと彼女の親友で陸上部の水原鳩、大学の同僚で近現代史が専門の来栖先生……。
「たとえば秋葉原さんは地元の商店街で代々続く足袋店のひとり息子ですが、若いときに働くことはあきらめて、基本的にはずっと無職です。でも、庭を整えたり、壊れた扉をパパッと直したりすることは得意。この年齢になると、会社とか仕事とはちょっと違う、『生きるスキルをもつ人が老後を楽しめるんじゃないか』と思って描きました」
登場人物も魅力的だが、本書に登場する食べ物が何ともおいしそうで魅力的。学生たちにふるまう野菜の素揚げカレー、お茶うけにつまむ梅びしおや塩昆布、黒豆とクリームチーズを和えたワインのおつまみに、金目鯛の煮汁で煮含めた里いも……おなかがグーッと鳴るようなシーンがあちこちに登場する。
「私は食べることが大好きなので、食事のシーンを書いていると筆が進むんです。食べることも日常の大切な楽しみですよね」
人と街、人と人が織りなす温かくて愛おしい物語だ。
PROFILE
中島京子
なかじま・きょうこ●1964年、東京都生まれ。東京女子大学卒業。
出版社勤務ののち、アメリカ滞在を経て、2003年『FUTON』で小説家デビュー。
10年『小さいおうち』で直木賞受賞。泉鏡花文学賞、柴田錬三郎賞、吉川英治文学賞など多数の受賞歴をもつ。
『長いお別れ』『やさしい猫』など著書多数。
※この記事は「ゆうゆう」2024年7月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。
取材・文/佐藤ゆかり
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