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【光る君へ】待望の皇子誕生の裏で、まるで夫婦のような紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)に周囲は疑念を抱くばかり…

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志賀佳織

【光る君へ】待望の皇子誕生の裏で、まるで夫婦のような紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)に周囲は疑念を抱くばかり…

大河ドラマ「光る君へ」第36回より ©️NHK

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2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」。『源氏物語』の作者・紫式部のベールに包まれた生涯を、人気脚本家・大石静がどう描くのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第35回「中宮の涙」と第36回「待ち望まれた日」です。

▼「光る君へ」のレビュー一覧は▼2024年NHK大河ドラマ「光る君へ」レビュー

左大臣・藤原道長(柄本佑)のたっての願いによって、中宮・藤原彰子(あきこ/見上愛)の暮らす藤壺に上がり、一条天皇(塩野瑛久)のための物語を書きつつ彰子に仕えるようになった、藤式部ことまひろ(後の紫式部/吉高由里子)。

これまで一条天皇に語りかけることはおろか、その目をまっすぐ見ることすらできなかった彰子が、まひろには徐々に心を開き、自らの心に秘めた思いを口に出すことができるようになったのが前回。一条天皇も、最初は自分への当てつけとしか受け取れなかったまひろの書く「光る君」の物語に徐々に引き込まれていく。周囲にいる者たちのほとんどは、自分に遠慮してはっきりとしたことを言わない。しかし、まひろだけは物怖じせずにまっすぐ語りかけてくる。そのことに、彰子だけでなく天皇も徐々にまひろへの信頼を寄せていくのだった。

そして第35回「中宮の涙」である。一条天皇の心は和らいではきたものの、しかしながら、肝心の「お渡り」は相変わらずない。娘・彰子の幸せを願わずにはいられない道長は、彰子の懐妊を祈願するために、生涯最初で最後の御嶽詣(みたけもうで)に、長男・藤原頼通(よりみち/渡邊圭祐)と、妻・源明子(あきこ/瀧内公美)の兄・源俊賢(としかた/本田大輔)を伴い、吉野の金峯山(きんぶせん)へ出かけていく。

当然のことながら、この時代の旅はほぼ徒歩である。そして金峯山の山上本堂に参るためには、急峻な山道を進み、崖をよじ登っていくしかない。現代と比べれば装備も簡素なので、まさに旅は命がけだ。その様子が、冒頭からの割と長めのシーンでよく伝わってきた。このとき道長は何歳だったのかわからないが、特に疲労が激しいところもリアルだった。

その間、まひろの藤壺の局には、一条天皇が訪ねてきていた。物語の話をしつつも、このたびの道長の御嶽詣について、いくら中宮の懐妊を祈願するためとはいえ、そこまでなぜするのかと問う。天皇にしてみれば、これも自分への圧のように感じられるのだろうが、まひろは、それが親心というものであり、命がけでしてしまうのが人というものだと答える。

そして、ここでまた安心できないのが、藤原伊周(これちか/三浦翔平)の暗躍である。この旅を道長暗殺の好機と捉えた彼は、手下を使って道長一行を襲わせる計画を立てる。本堂への参詣をすませて少々安堵しつつ帰路を急ぐ一行を、頭上の物陰から狙う一団。あああ、逃げて逃げてとハラハラしつつ見ていると、そこへ伊周の弟、あの能天気な藤原隆家(たかいえ/竜星涼)が現れて、「このあたりで落石が近く起きるかもしれません。急ぎ通り抜けることをおすすめいたします」と間一髪、救いの手を差し伸べる。伊周にしてみれば、あろうことか実弟に計画を阻まれてしまった。

その後、山の中で兄弟は向き合う。「ここまで邪魔をされるとは。お前は俺の仇か?」という伊周の言葉に、道長を亡きものにしたところで今さら何の得もない、兄の行く末を思えばこそ阻んだのだと隆家は言うが、伊周にその言葉は響かない。そもそもこんなことになったのも、隆家が花山院の御車を射たからだと、そんな昔までさかのぼって恨み言を言うのだ。

いつまでも失ったものの幻影にすがり運命を恨むことから抜け出られない兄と、切り替えて時流にうまく乗っていく弟。この二人のキャラクターが、三浦翔平と竜星涼によってうまく演じ分けられているなぁといつも感心するのだが、今回は特にその対比が際立って、それぞれの思いが胸に迫ってきた。

大河ドラマ「光る君へ」第35回より ©️NHK

無事に都に戻った道長は彰子に金峯山の護符を手渡す。また、まひろの局も訪ねて、「物語の続きはどうなっておる?」と尋ねる。まひろは「昨晩、ひとつ巻を書き上げました」と、新たな原稿を見せた。ひととおり読み終えた道長は、逃げた小鳥を追う場面に昔の自分たちを重ねて懐かしく思うとともに、一方で不義の末にみごもる藤壺の話に「この不義の話はどういう心づもりで書いたのだ」と問いかける。それに対してまひろはきっぱりとこう答えるのだ。「わが身に起きたことにございます。わが身に起きたことはすべて物語の種にございますれば」

一瞬、表情を固くする道長は、「恐ろしいことを申すのだな」。そしてすかさずこう尋ねる。「お前は不義の子を産んだのか」。このときのまひろの答えが秀逸である。「ひとたび物語になってしまえば、わが身に起きたことなぞ霧の彼方。まことのことかどうかもわからなくなってしまうのでございます」

これはもう、まひろの勝ち、である。何かを感じて具体的な事実を引き出すことに拘泥する道長に対して、もうそんなこととっくに乗り越えたのよ。ものを書くということは、こうして命を張っていくことなのよ、とでも言わんばかりに、毅然と揺らがないまひろ。道長のほうがちょっと小さく見えてしまう瞬間であり、まひろの作家としての覚悟がますます確かなものになってきたことが伝わってきた場面でもあった。

今や中宮・彰子もまひろの物語に興味津々だ。ある日、まひろにこう告げる。「光る君に引き取られて育てられる娘は、私のようであった。私も幼き頃に入内してここで育ったゆえ。この娘はこの後どうなるのだ?」すると、まひろもいたずらっぽく微笑んでこう返す。「中宮様はどうなればよいとお思いでございますか?」「光る君の妻になるのがよい。藤式部、なれるようにしておくれ」。自らを物語の人物に重ねて語る彰子の一途な思いを感じ取ったまひろはこう助言する。

「中宮様、帝に『まことの妻になりたい』と仰せになったらよろしいのではないでしょうか。帝をお慕いしておられましょう?」しかし、彰子は打ち消すように「そのようなことをするのは私ではない」と言う。「ならば中宮様らしい中宮様とはどのようなお方でございましょう。私の存じ上げる中宮様は、青い空がお好きで、冬の冷たい気配がお好きでございます」「いろいろなことにときめくお心もお持ちでございます。その息づくお心のうちを帝にお伝えなされませ」

そこに突如、一条天皇がやってくる。「敦康(あつやす)に会いにきたがおらぬか」とつぶやく一条天皇に、突然、彰子が勇気を振り絞って声をあげた。「帝、お慕いしております!」

彰子のこれまで見せなかった情熱とその言葉に驚き圧倒された天皇は、「また来る」と言うのが精一杯。その場を立ち去ってしまうのだが、切ないのは取り残された彰子である。涙をボロボロ流して泣き濡れる様に、胸を痛めるまひろなのだった。

しかし、しかしである‼️ この彰子の勇気が一条天皇の心を動かした。道長が内裏で政の報告をしている際に、天皇が突如こう告げたのだ。「今宵、藤壺に参る。その旨伝えよ」。驚いたのは道長である。女房たちがせわしなく行きかい、彰子の身支度を整え、とうとう天皇がやってきた。

向かい合う彰子に一条天皇は尋ねる。「いくつになった?」「二十歳にございます」「いつの間にか大人になっておったのだな」「ずっと大人でございました」。すると天皇はやや何かを思った様子で「そうか。寂しい思いをさせてしまってすまなかったな」。そして優しく彰子を抱き寄せるのだった。

その夜、月を見上げるまひろと道長。「お前の手柄なのか」と尋ねる道長に、まひろは「私は何もしておりませぬ。お上のお心を掴まれたのは中宮様ご自身にございます。きっと金峯山の霊験にございましょう」「どちらでもよいが、よかったぁ……」と、まるで夫婦のように微笑み合う二人。ああ、こういう時間を持てるなんて、よかったね、まひろ、と思っていたらその背後に何やら人影が。あああああ、「光が強ければ、陰もまた濃くなる」と言った安倍晴明(はるあきら)の言葉が思い出される。どこまで行っても魑魅魍魎が跋扈する内裏だわね、と痛感するラストシーンなのだった。

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