私らしく生きる 50代からの大人世代へ

記事ランキング マンガ 連載・特集

イラン映画の底力におそれ入る『聖なるイチジクの種』カンヌ国際映画祭受賞作【中野翠のCINEMAコラム】

公開日

更新日

中野翠

ユニークな視点と粋な文章でまとめる名コラムニスト・中野翠さんが、おすすめ映画について語ります。今回は第77回カンヌ国際映画祭・審査員特別賞受賞作のイラン映画『聖なるイチジクの種』です。

▼その他の映画記事はこちら▼

>>中野翠のCINEMAコラム

自作映画に対する情熱と確信。イラン映画の底力におそれ入る

イラン映画と言ったら、腰が引けてしまう人も多いかもしれない。イランだのイラクだの中東の国には、なじみが薄いのだから、しかたない。

それでも、イランはアッバス・キアロスタミ監督という、すばらしい監督を生み出した。『友だちのうちはどこ?』『オリーブの林をぬけて』『桜桃の味』など、世界的にも注目され、賞賛された。私も「キアロスタミ監督にハズレ無し」と思って来たのだったが……2016年に亡くなってしまった。76歳……。まさに「巨星墜つ」。

というわけで、イランの映画を観ることも少なくなってしまったのだが……このイラン人監督による『聖なるイチジクの種』には、ハッとさせられた。サスペンス・スリラー。

主人公はマジメで愛国心も強い国家公務員。反政府デモの逮捕者に刑罰を科すのが大事な仕事になっている。その刑罰というのが、残念ながら、不当なものであることも理解している。民衆たちの報復を怖れて、国から護身用の銃が支給されることになったのだが……その大事な銃が、なくなってしまった!

銃を盗んだのは、いったい誰なのか? その目的は何なのか? 家族それぞれに疑惑がかかる。平穏だった家族が今やバラバラに。そして……という話。

上映時間は2時間47分と長めだけれど、ダレることなく、興味津々で観ていられる。さすがキアロスタミ監督を生み出した国の映画だと、うれしく思った。

実を言うとモハマド・ラスロフ監督は、自作映画でイラン政府を批判したという理由で有罪判決を受けていたという。

この『聖なるイチジクの種』を多くの人に観てもらいたという一心で、命がけでイランを離れて、28日かけてカンヌにたどりついたという……。

自分の映画に対する情熱と確信に、おそれ入る。必見!

『聖なるイチジクの種』

監督・脚本/モハマド・ラスロフ 
出演/ミシャク・ザラ、ソヘイラ・ゴレスターニ、マフサ・ロスタミ、セターレ・マレキ 他
2月14日よりTOHOシネマズ シャンテ 他 全国順次公開
(フランス、ドイツ、イラン 配給/ギャガ)

©Films Boutique

ドキュメンタリー『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』もおすすめ

そうそう……2月21日公開の『犬と戦争』も、犬好き必見でしょう。ロシアによるウクライナ侵攻のもとでの犬たちの運命……。これも見逃せない。

※この記事は「ゆうゆう」2025年3月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のため再編集しています。

▼その他の映画情報▼

>>学力最底辺の小学校から全国トップクラスを輩出した奇跡の実話『型破りな教室』【中野翠のCINEMAコラム】 >>白髪のお坊さん、ブータンで初の「選挙」に挑む!『お坊さまと鉄砲』【中野翠のCINEMAコラム】 >>「池松壮亮が死んだ母親と再会」近未来の親子の姿を描いた映画とは?【中野翠のCINEMAコラム】

PICK UP 編集部ピックアップ