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【ヨシタケシンスケさん最新作】ままならぬ日常を生きる大人に贈るモノクロ絵本『そういうゲーム』

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ゆうゆう編集部

「ぼくにとって絵本の制作は『自分用の松葉づえ』作り」と話すヨシタケシンスケさん。5秒で勝負がつくゲームもあれば50年かかるゲームもある––––、ままならぬ日常を生きる大人に贈る著者初のモノクロ絵本『そういうゲーム』について伺いました。

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『そういうゲーム』
ヨシタケシンスケ著

考えすぎてつらくなったとき、人生をゲームに見立てることで日々をやり過ごすきっかけを見つける、ヨシタケ流「生きるためのベンリな考え方」ヒント集。
KADOKAWA 1540円

ぼくにとって絵本の制作は「自分用の松葉づえ」作り

ページをめくるごとに、さまざまな「ゲーム」が登場する。最初のページには、横断歩道の白いところだけを踏んで渡る、というゲームをする子がいる。次のページには、チェス盤の前で向き合う祖父と孫。そんな他愛もないゲームの中に、切実なゲームがまじる。「自分を傷つける人からどこまでとおくにいけるか」というゲームや、「しんどいきもちをどうにかまぎらわせて(中略)明日の朝までふとんのなかで息をしていれば」勝ち、というゲーム。描かれた人物の、見開いた目、散らかった部屋が何ともやるせない。

2013年、『りんごかもしれない』で鮮烈なデビューを飾ったヨシタケシンスケさん。ユニークな着眼点と愛らしい絵で老若男女に愛されるが、本作は少し雰囲気が違う。

「ぼく自身、すごく不安が強い人間なので、すぐに心配になるし物事を大げさにとらえてしまう。だから『これはゲームだ』って考えて、そのバリエーションを増やすことができたら、自分が助かるなぁ、ラクになるなぁって思ったんです」

自分のための絵本ということ?

「ぼくは『子どもの自分』と『今の自分』のために絵本を作ってきたんです。いわば『自分用の松葉づえ』で、自分の人生を歩きやすくしてくれる補助道具です。自分のための本ですが、読んだ人にも『この本があると助かる』と思ってもらえたらうれしいです」

ゲームの中には毒もある。「名前を出さずに安全なばしょから 自分の正義をふりかざして 自分の正しさにうっとりできたら」勝ち、というゲームを楽しむ人もいる。

「あえて軽いゲームや重いゲーム、世の中に役立つゲームも悪意あるゲームも入れました。その振れ幅の中で、読んだ人の心がザワザワしたり、『自分にとってのゲームって?』『何が勝ちで、何が負けなの?』と自分の価値観をとらえ直すきっかけになったりしてくれたらいいな、と思っています」

あえて大人向けの絵本にしたのは、ヨシタケさん自身が51歳になったことも大きいと話す。

「子どもの自分や今の自分だけでなく、20年後、30年後の自分に向けた絵本を描きたくなったんです。50代になって少しずつできないことが増えて、寂しくなってきて、人生の先輩方はこの寂しさにどう対処してきたのかな、と。これは今のぼくにとって最高にホットな話題なんです(笑)。だから現在の自分の見方や考え方を本にすれば、未来の自分が面白がってくれるかもしれない、あるいは先輩方が、自分も50歳くらいのとき、こんなこと考えていたなって思い出してくれるかもしれない、そう思って作りました」

子どもは対象外なのだろうか。

「そんなことはありません。子どもには『大人はこれの何が面白いんだ?』という疑問が残るかもしれないし、それが20年後に『わかる!』になるかもしれない。本は変わらないけれど、自分が変わる。だから本から受け取るものも変わるんです。これは本のもつ大きな力だと思っています」

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