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「世間から怖い人と思われているつかこうへいも、私にとっては甘々なお父さん」それでも1度だけ怒られた、そのまさかの理由は?【愛原実花さんのターニングポイント#2】

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恩田貴子

元宝塚歌劇団雪組トップ娘役で、劇作家の故・つかこうへいさんを父に持つ愛原実花さん。出産後、初舞台となるミュージカル『アニー』にかける思いや宝塚歌劇団時代のことなど、じっくりとお話を伺いました。(全3記事中の2記事目)

▼前回記事はこちら▼

>>元宝塚雪組トップ娘役・愛原実花さん。出産後「子育てでいっぱいいっぱい」だっった1年を経て舞台復帰する『アニー』への思いとは?【愛原実花さんのターニングポイント#1】

お話を伺ったのは
愛原実花さん 女優

あいはら・みか●1985年生まれ、東京都出身。
2002年、宝塚音楽学校に入学。04年、宝塚歌劇団入団。09年、雪組トップ娘役に就任。
10年9月『ロジェ/ロック・オン!』公演で退団。その後は俳優として、数多くの舞台に出演。
主な出演作に、『熱海殺人事件』『ラ・カージュ・オ・フォール』『るろうに剣心』『スクルージ~クリスマス・キャロル~』『夜曲~ノクターン~』など。
父は劇作家の故・つかこうへいさん。

『アニー』の台本を通じて、子育てへの思いに変化が

4月19日より、東京・新国立劇場中劇場にて上演されるミュージカル『アニー』。アニーの運命を大きく変える大富豪・ウォーバックスの秘書、グレース役を演じる愛原実花さんにとって、本作が出産後初の舞台出演となる。

グレースとして『アニー』という作品に向き合う中で、愛原さんは子どものころに『アニー』を観たときとは違う感情に、日々心を揺さぶられていると言う。

「小さなころは、アニーたちの歌が好きで、見終わった後にハッピーな気持ちになれるストーリーも大好きでした。でも自分に子どもが生まれた今、アニーが孤児院で小さな子どもたちのお母さん代わりを務めている姿が、すごく心に刺さるんですよね。アニーだってまだまだ子どもなのに、がんばってお母さん代わりになろうとしているんだって。

そんなアニーは、持ち前の明るさと行動力で未来を切り開き、孤児院の子どもたちもまた、どんどん強く、たくましく成長していきます。

子育てをしていると、どうしても心配が先立ってしまい、『私がもっとがんばらなきゃ』と、ちょっと神経質になってしまう部分があったんですよね。先に石橋を叩いてあげたいと思ってしまうような。でも台本を読み、アニーたちの姿を見ていて、ハッとしたんです。子どもはすごいパワーを持っていて、自分の力でどんどん成長して大人になっていくんだって。その姿に勇気をもらったというか、救われた気がして。そこから、子どもの持つ強さ、本来持っている本能みたいなものを信じようと思うようになりましたし、子育てに対する思いが変わったと思います」

また、「家族の在り方についても、改めて考える機会になった」と、言葉を続ける。

「たとえ血がつながっていなくても、相手を思いやる気持ちがあれば家族になれる。それがどんな関係であっても、どんなシチュエーションであっても。アニーやグレース、ウォーバックスたちの姿から、改めて家族の在り方を学んでいる気がします。

今の時代、人間関係が希薄になっていますよね。そんな今だからこそ、人と人とのつながりの大切さを、『アニー』を通じてお届けできたら」

宝塚歌劇団との出会いが人生初のターニングポイント

愛原さんにも、血縁ではなく、絆で結ばれた「もう一つの家族」がある。それが、約6年間在籍した宝塚歌劇団だ。入団のきっかけとなったのは、通っていた学校の文化祭なのだそう。

「中高一貫校に通っていたのですが、進学が決まっていた高校にはレビュークラブという、宝塚歌劇団の作品を研究して、それをもとに舞台を制作するクラブがあったんです。中学3年のときに文化祭で観たレビュークラブの舞台が衝撃で。『こんな素晴らしい世界があるのか!』と一瞬で魅了されました。あの瞬間が、私の人生における最初のターニングポイントだったと思います。

その後はお小遣いをはたいて宝塚のビデオを買い、東京の宝塚劇場にも通い詰め……。いつも当日券で買った2階席の一番後ろの立ち見席から、舞台を見つめていましたね。『ベルサイユのばら』では、クライマックスの場面で重要な役割を果たす舞台上の白旗が見えなかったけれど(笑)、それでも幸せでした」

宝塚にハマり、ファンになると同時に、宝塚音楽学校の受験のための準備を始めたという愛原さん。宝塚のどんなところにそれほど惹かれたのかとたずねると、堰を切ったように言葉があふれ出した。

「幕が開いた瞬間、鳥肌が立ったんです。『この女性たちの覚悟、すごい!』って。ものすごい量の練習を積み、覚悟を持って舞台に上がっていることが瞬時に伝わってきた。一糸乱れぬラインダンスや群舞の動き、衣装の着こなし方や手の使い方など、伝統的な形式美にも魅了されましたね。

4歳からバレエは習っていましたが、その他の科目を1年間必死に勉強して、宝塚音楽学校に合格。2年間の学びを経て宝塚歌劇団に入団しました。音楽学校、歌劇団では芸事だけではなく、舞台に対する姿勢、志や人間関係の大切さなど、すべてのことを学びましたし、苦楽をともにした仲間たちは私にとって家族のような存在です」

宝塚音楽学校進学に反対はしないものの、絶句した父・つかこうへい

家族の話から、父である劇作家の故・つかこうへいさんにまつわるこんな話も。

「父にも、私たち以外の家族があったように思います。それは、ともに芝居をつくっていた役者・スタッフの方々。父は役者のみなさんに対して、『演劇の世界はすごく不安定な世界だけど、お前たちは俺の家族だから全部責任持つよ。そのかわり、俺の台本を全部信じろ』という気持ちでいたんじゃないかなと思うんです。

私に対しては甘々な父で、本当に普通のお父さんでしたが、世間の方からは“怖い人”というイメージを持たれていたと実感しています。でもそれは、役者さんに対して責任を持って接していたが故のギャップなんだろうなと思っています」

つかさんの愛原さんへの溺愛ぶりは、親しい人の間では有名だったそう。宝塚音楽学校に合格したときや雪組のトップ娘役に就任したときなどは、友人の携帯電話の着信履歴につかさんの名前がズラリと並んでいた、という逸話もほほえましい。

「信じてもらえないかもしれないのですが、私、自分が赤ちゃんのころから父に愛されていた記憶があるんです。私を見ている父の顔がとても幸せそうで、『この人は私のことを大好きなんだな』って、いつも感じていました。

父に怒られたことは一度きり。幼いころから父にはずっと、『本を読んで見分を広めなさい』といわれていたのに、ふざけていて本を踏んづけてしまったことがあったんです。そのときに『本はとても大切なものだから、絶対に踏んではいけない!』と怒られた一回だけ。やりたいと言ったことに対して、『ダメ』と言われたこともありませんでした。

宝塚に行きたいと言ったときも、反対はされませんでした。絶句はしていましたけれど(笑)。きっと心配だったろうし、寂しかったのだと思います。ただ、父は宝塚をリスペクトしていました。全寮制の学校で、学びながら生徒を育てていく宝塚と、役者さんたちの面倒を丸ごと見る覚悟で、ともに作品をつくっていた父の精神は、どこか通ずるものがあったのだと思います。エンターテイメントとして、宝塚だけは無条件に認めていた、という話も、父とずっと一緒に芝居をつくっていた方から聞いたことがあります。私が宝塚に行くことを許してくれたのも、それが“宝塚だったから”かもしれませんね」

愛原さんはかつて、つかこうへいさんがつくる芝居と宝塚の共通点について話したことがある。「どちらも見た人が幸せな気持ちになれる舞台」だと。そして今回のインタビューでは……。

「『アニー』を観ていると、本当に幸せな気持ちになれるんです。観劇してくださったみなさまにも、帰り道に思わず劇中の楽曲を口ずさんでしまうくらい、ハッピーな気持ちになっていただけたらうれしいですね」

最終回となる次回は、舞台に立つ意味と、俳優活動の指針ともなっている、つかこうへいさんからの教えについてお届けする。

愛原実花さんのターニングポイント②

「中学3年のときに出合った宝塚歌劇団。『こんな素晴らしい世界があるのか!』と一瞬で魅了され、宝塚音楽学校進学へとつながりました」

撮影/園田昭彦

【INFORMATION】丸美屋食品ミュージカル『アニー』

舞台は1933年、世界大恐慌直後のニューヨーク。誰もが希望を失うなか、孤児院で暮らすアニーだけは元気いっぱい。生き別れた両親にいつか会えると信じている。そんなアニーは、クリスマス休暇の間、大富豪・ウォーバックスの自宅で休暇を過ごすことに。彼女の前向きな姿に心を動かされたウォーバックスは、アニーの両親探しを手助けする。懸賞金目当てに群がる偽の親たちや悪だくみをする者も現れるなか、アニーは本当の家族に出会えるのか……⁉

演出:山田和也
出演:丸山果里菜、小野希子(Wキャスト)、藤本隆宏、愛原実花、赤名竜乃介、浜崎香帆、須藤理彩 ほか

東京公演:4月19日(土)~5月7日(水) 新国立劇場 中劇場
※東京公演の他、上田、大阪、金沢、名古屋公演予定

東京公演問い合わせ:キョードー東京 ☎︎0570-550-799
オペレーター受付時間(平日11:00~18:00 / 土日祝10:00~18:00)
公式ホームページ:https://www.ntv.co.jp/annie/

東京公演主催/製作:日本テレビ放送網
協賛:丸美屋食品工業
Annie2025©NTV

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