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父・勘三郎は絶対的存在【中村勘九郎さん&中村七之助さん】「これだけは兄に負けない」ものとは?

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ゆうゆう編集部

中村勘九郎さん、中村七之助さんを中心とした中村屋一門の全国巡業公演は今年で21年目を迎えます。演目も新たに挑むこの春の公演は、「初めて歌舞伎をご覧になるお客さまにも楽しんでいただきたい」という思いの詰まった演目。公演への意気込みから家族・兄弟の絆の話まで、お二人に伺いました。

PROFILE
中村勘九郎 歌舞伎俳優

なかむら・かんくろう●1981年、東京都生まれ。
87年、歌舞伎座『門出二人桃太郎』にて兄の桃太郎役で二代目中村勘太郎を名乗り初舞台を踏む。
2012年に六代目中村勘九郎を襲名。
歌舞伎のみならずドラマ、映画、舞台など幅広く活躍。
主な作品にNHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」他。

PROFILE
中村七之助 歌舞伎俳優

なかむら・しちのすけ●1983年、東京都生まれ。
87年、歌舞伎座『門出二人桃太郎』にて弟の桃太郎役で二代目中村七之助を名乗り初舞台を踏む。
2003年、ハリウッド映画『ラスト サムライ』に明治天皇役で出演。
21年のNHK時代劇「ライジング若冲 『天才かく覚醒せり』」では主役の伊藤若冲を務めた。

父・勘三郎は絶対的存在。父のために芝居をしてきた

歌舞伎の名門・中村屋に生まれ育ち、歌舞伎界の次世代を担う存在として活躍を続けている中村勘九郎さん、中村七之助さん兄弟。父である十八世中村勘三郎さんは2012年、57歳で逝去。二人は昨年、およそ1年をかけて勘三郎さんの十三回忌追善興行を行った。

「『追善ができるような役者になってくれ』というのが祖父(十七世中村勘三郎)から父への遺言のようなものでした。襲名は皆さまの支えがあってできるものですが、追善となると本人はもう亡くなっているわけですから、故人をしのぶ僕たちがしっかりしないとできません。1年を通してそれをできたことが嬉しく、誇りに思います」(勘九郎さん)

「2月の歌舞伎座を皮切りに10月の三島村公演まで、あっという間でした。『やりきった』という思いと『もう終わってしまうんだな』という寂しさもありましたが、追善興行を通して父に触れてもらうことができ、少なからず親孝行ができたかなと思っています」(七之助さん)

稀代の名優と称され、歌舞伎の普及に尽力した父・勘三郎さんは、二人にとっても別格の存在だった。

「もう絶対的存在ですよ。父が生きているとき、私たちが何のために芝居をしていたかといえば、父のためでしたから。それは亡くなった今も変わりません。役を勤めるとき、『これを見て父なら何て言うだろう』と常に考えながら演じている部分はありますね」(勘九郎さん)

「父はよく『楽しいこと、面白いことをしよう』と言っていました。つらいとか苦しいとか、ネガティブなことを言わない人だったんです。心の底はわかりませんけれど、自分の好きなことで突っ走っていた人だったと思います」(七之助さん)

歌舞伎の楽しさをより多くの方へ届けたい

そんな勘九郎さん、七之助さんを中心とした中村屋一門が05年から毎年のように開催しているのが全国巡業公演。始めたきっかけは、ある一通の手紙だった。

「地方の学生の方から『歌舞伎座に行きたいけれど、宿泊代、交通費がかかるので学生の私には難しいのです』というお手紙をいただきまして。『それならこちらから赴こう』と始めたんです。これまでに全国47都道府県すべてを制覇。今年21年目を迎えることができ、嬉しい限りです」(勘九郎さん)

今年は5月に「新緑歌舞伎特別公演2025」と題し、全国16カ所で開催する。演目は、七之助さんが女方として清艶に舞う『高尾懺悔(たかおさんげ)』と、勘九郎さんと若手のホープとして注目を集める中村鶴松さんとの息の合った掛け合いが楽しめる『太刀盗人(たちぬすびと)』の2作品。

「『高尾懺悔』はとても珍しい踊り、ちょっとネガティブなことを言えば暗い踊りです。主人公は伊達騒動のきっかけとなったといわれる遊女・高尾太夫(だゆう)。華々しい世界に生きているように見えて、いろいろな事情で売られてきたという悲しみを抱えた遊女が、廓(くるわ)の四季折々の情景を思いつつ舞い、最後は地獄の責めに遭う姿を物悲しく踊ります」(七之助さん)

「対して『太刀盗人』はコミカルでカラッとした演目。田舎者が持っていた太刀をスリが盗み、バレてしまうんですけれども、どっちが本物の太刀の所有者なのか裁きを受けることになる……という、シンプルで面白い作品です」(勘九郎さん)

初めての歌舞伎鑑賞にこの巡業公演はもってこい

歌舞伎を観る前には、恒例の「トークコーナー」や、歌舞伎の舞台裏を知ることができる「ミニ歌舞伎塾」も用意されている。

「歌舞伎ってハードルが高いんじゃないか、何をやっているのか理解できないかもしれないと不安を抱えていらっしゃるお客さまも。だから最初にトークやミニ歌舞伎塾をやることで舞台と客席との壁を取っ払い、より演目を楽しんでいただけるようになるんじゃないかなと思っています。実際、『初めて生で歌舞伎をご覧になる方は?』と質問すると、けっこう多くの方が手をお挙げになる。そういう方にも歌舞伎を楽しんでいただくために、いろいろな工夫をしています」(勘九郎さん)

「私たちの巡業公演を観て歌舞伎にハマり、歌舞伎座に足を運んでくださる方もたくさんいらっしゃいます。もちろん中村屋だけでなく、歌舞伎を好きになってくださるのが一番。そういう意味でも毎年続けているわけです。私たちの体力が続く限り、私たちの好きな歌舞伎を多くの方に観てほしいという思いが根底にあります」(七之助さん)

初めて歌舞伎を観る人でも安心して楽しめ、何度も足を運んでいる熱心な歌舞伎ファンの方にも満足のいく内容であることに、二人も自信をのぞかせる。

「歌舞伎の魅力がぎっしり詰まった演目になっているので、ぜひ足をお運びください」(勘九郎さん)

40代になっても気持ちは若い頃のまま

勘九郎さん5歳、七之助さん3歳で初舞台を踏んでから約38年。兄弟としてはもとより、ともに歌舞伎界を盛り立てる役者同士だからこそ、互いへのリスペクトもある。

「歌舞伎には古典だけではなく新作もあります。新しい作品に挑むとき、作者がどういう思いで書いているのか、セリフだけではなくその裏側を見極めることがとても大切になってくるのですが、その脚本を読む力が七之助は特に優れている。新作をやるうえで、とても頼りになるなと思いますね」(勘九郎さん)

「兄は昔から一生懸命、真面目に芝居に取り組んでいる。父が亡くなってからの統率力、プロデュース力はやはり中村屋の芯であり、信頼できると思っています。父もそうでしたけれども、言葉ではなく体で示す、行動で示すというのを体現しているなと思います」(七之助さん)

では、「これだけは負けない」と思うことは? そう尋ねると、七之助さんが即答した。

「寝起きのよさ。朝4時起きでも苦じゃないし、スパッと起きてすぐ行動できます。一方、兄は昔から寝起きが悪いんです」(七之助さん)

「いや、最近は僕も寝起きがいいんですよ。マグネシウムのサプリをとるようになってから、睡眠の質がよくなりましたから」(勘九郎さん)

互いに40代。とはいえ、二人とも年齢を意識することはあまりないと話す。

「白髪が増えたくらいで、気は若いつもりです。この先、体力の衰えなどに思い悩むことがあると思いますが、『じゃあどうするか』とプラスの力に変えて、続けていければいいなと思っています」(七之助さん)

「年齢を重ねてシワやたるみがあっても、そのまんまの人ってかっこいい。だから僕もそのまんまでいたいなと思いますね」(勘九郎さん)

【INFORMATION】中村勘九郎 中村七之助 新緑歌舞伎特別公演2025

中村勘九郎、中村七之助を中心に中村屋一門が行う全国巡業公演。2005年から毎年のように各地で開催し、22年には全国47都道府県制覇を達成。今年は5月3日から25日まで全国16カ所で行われる。歌舞伎を初めて観る方も楽しめるようにと、トーク&ミニ歌舞伎塾、舞踊、喜劇という3部構成となっている。

出演/中村勘九郎、中村七之助、中村鶴松 他
日程/2025年5月3日~25日 
㉄サンライズインフォメーション ☎︎0570-00-3337(平日12時~15時)

撮影/中村彰男
スタイリング/作山直紀
ヘア&メイク/中村優希子
取材・文/本木頼子
衣装協力/ワイズフォーメン ☎︎03-5463-1540

※この記事は「ゆうゆう」2025年5月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

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