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【あんぱん】まさかの登場を果たした母 松嶋菜々子。悪女でありながら常に美しく怪しい輝きを放つハマり役だ

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田幸和歌子

【あんぱん】まさかの登場を果たした母 松嶋菜々子。悪女でありながら常に美しく怪しい輝きを放つハマり役だ

「あんぱん」第14回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

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【あんぱん】朝ドラワールドとアンパンマンワールドの2つの世界をつなぐ「遊び」のような演出が楽しい

『アンパンマンのマーチ』の歌詞そのままのようなセリフ

『アンパンマン』原作者で漫画家のやなせたかしの妻・小松暢をヒロインとして描くNHK連続テレビ小説『あんぱん』の第3週「なんのために生まれて」が放送された。

このサブタイトルは、テレビアニメ『それいけ!アンパンマン』のテーマ曲「アンパンマンのマーチ」の歌詞を思い起こさせてくれるものであることは言うまでもないだろう。作詞はそう、やなせたかし本人によるものである。

国民的アニメ『それいけ!アンパンマン』と、その原典である絵本の存在は、現在まで多くの人に愛されているものだ。その原作者とその妻の物語であるだけに、パン職人・屋村の名前を「ヤムおんちゃん」と呼ばせたり、随所にあんぱんが登場するなど、絵本やアニメで描かれてきた要素を直結させるということ、パン職人・屋村の名前を「ヤムおんちゃん」と呼ばせたり、随所にあんぱんが登場するなど、初週からその要素は随所にファンサービス的に投入されてきた。

「なんのために生まれて、なにをしながら生きるがか。なんがおまんらの幸せで、なんをして喜ぶがか」

『アンパンマンのマーチ』の歌詞そのままのようなセリフを、柳井の家族の食事の場で嵩(北村匠海)たちに向けて、低くいい声で語る嵩の伯父の寛(竹野内豊)。それを感銘を受けたように聞く嵩だが、アンパンマンワールドの根幹をなすテーマのようである言葉は、やなせたかしオリジナルのものでなく、伯父の言葉を受けてのものだったということはそれでいいのだろうか。

「あんぱん」第11回より(C)NHK

さて、先週ラストで登場し、今週から本格的にヒロインのぶ(今田美桜)と嵩のストーリーに突入した。のぶは高等女学校5年生へと進級、時は戦前、女性は卒業後はほとんどがそのまま結婚、立派な母親となるということが当たり前とされた時代だ。のぶも、女子師範学校への進学を希望するが、祖父の釜次(吉田鋼太郎)は猛反対するといった状況だ。そんななか開催された町内の祭りでのパン食い競走にも「おなごだから」という理由で出場もできない。そんな時代である。

〝ハチキンののぶ〟ここにあり

のぶは、幼いころから土佐弁で言う「ハチキン」、活発な女性として描かれている。そして、その脚力も随所で披露してきた。男子たちがパン食い競走で走り出した次の瞬間、〝ハチキンののぶ〟は履物を脱ぎ捨て、「腹痛で出られない」という嵩の出場者たすきを受け取りパン食い競走に乱入、最後には見事な脚力で1位を獲得する。男子に負けないどころか勝ってしまう、〝ハチキンののぶ〟ここにありといった痛快な瞬間でもあった。

とはいえ、のぶがパン食い競走に出たがったのは、単に男子を負かしたいというものではない。釜次がかねて欲しがっていたラジオが1等の賞品であったからだ。結局、出場資格のない女子であるのぶの1等は認められず失格となってしまう。しかし、繰上げで1位となった嵩の弟・千尋(中沢元紀)が、真の1等はのぶだからと、ラジオをのぶに譲るというイケメンぶりを発揮する。

そんな千尋との仲睦まじそうな様子を見ながら、少し切なくなる嵩はヤムおんちゃんに「ジェラシー、感じたことありますか?」と思わずその心情を吐露してしまう。嵩、千尋、そして思わぬ再会から、今回のパン食い競走の提案者でもある幼馴染の木島中尉(市川知宏)……のぶを取り巻く男性陣の青春群像がこれからどう描かれていくのか期待したくなる雰囲気をかもしだしてくれる。

「あんぱん」第12回より(C)NHK

「あんぱん」第12回より(C)NHK

ヒロインが今田美桜となり、次女・蘭子を河合優実、三女・メイコを原菜乃華が演じるという三姉妹の華やかさもまた、それだけで朝ドラの空気にはなやぎのようなものが出てくる気がして、それぞれの活躍もこの先期待できそうだ。それにしても三姉妹の中で「ハチキン」ののぶが、第1話の冒頭で上品な雰囲気を醸し出しつつ「嵩さん」と、「さん」呼びするような女性になっていくのは、この先どのような半生を歩んできたのか、そこにどう結びつていくのか、これは後半にかけての注目ポイントだろう。

「親戚の子」呼ばわりした母の登美子(松嶋菜々子)が登場

そんななかでまさかの登場を果たしたのが、ストーリー中8年前に嵩を預けたまま去っていき、訪ねてきた嵩を「親戚の子」呼ばわりした母の登美子(松嶋菜々子)である。平たくいえば「悪女」のような存在だが、まるで悪びれるでもなくふるまう様子は堂々としたものである。正義感の強いのぶは、嵩を置き去りにしたことを責め立てようとするが、嵩はそんなのぶに、母に会いたかったんだと説明する優しさと詮ない思いを表す。

断りなくお茶を点てるなど、まるで柳井家に昨日までいたかのようにふるまい、笑顔を見せる登美子は、悪女でありながら常に「美しさ」のような怪しい輝きを放つようにみえる。こういう役どころでの松嶋菜々子のハマり方にはやはり感心するとともに、周囲とのギスギス、ドロドロした雰囲気で惹きつけるあたりは、さすが中園ミホ作品と思わずにはいられなかった。

ところで、嵩は新聞社に送った漫画が新人漫画大賞に入選、賞金の十円を獲得する。のちの人生にも大きくつながるであろう快挙のはずだが、特に周囲に讃えられるでもなく、三姉妹やヤムおんちゃんにかき氷をおごったり、千尋に小遣いを渡すなど賞金を消費するばかりであった。そんな漫画を唯一賞賛してくれたのが登美子であるという、なんとも複雑な描写。登美子再登場によって、柳井家をめぐる人間模様がどう描かれているのか楽しみなところである。

さて次週、第4週のサブタイトルは、「なにをして生きるのか」である。2週つなげると、冒頭であげたアンパンマンのマーチの歌詞が成立する。やなせたかしの世界とハチキンののぶの価値観はどう展開していくのか。気になるところだ。

「あんぱん」第13回より(C)NHK

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