「普通の肩こりとは違う」娘が見つけた異変。88歳・養老孟司先生のがん治療との折り合いをつける方法
——つらい治療を受けながら寿命を延ばすのか、残された日々をおだやかに過ごすのか、それを選ぶのは悩ましい問題ですね。
中川 誕生して亡くなるというのは、日本国の場合は戸籍が管理するわけですから、死亡診断書に書かれるまでの時間を長くすることに過ぎません。抗がん剤を続けていれば、そのプラスの恩恵は受けられます。しかし、本人の体調ということになれば、マイナスの要素もあるわけです。それは本人にしかわかりません。
養老先生の体調は私にはわからないので、ご自分で決めなければなりません。ただ、養老先生のご家族が治療を続けてほしいと言う可能性はありますね。
養老 そういうことは抽象的にしか考えられません。さっきの死の具体性とは逆で、この病気は抽象的です。なにしろ病気が悪いと言われるのも、CTとかの結果でしかありませんから。
中川 そうです。がんはそういう病気です。養老先生も、昨年原発がんが見つかったときは、がんが骨に接していたため痛みがあって、それが治療でやわらいで、よくなっていくという具体性がありました。ところが再発のときは症状がまったくありません。だから養老先生にとっては雲をつかむような話なんです。
養老 あの痛みが、がんのせいだと思いませんでした。ずっと肩こりだと思っていたんです。僕はこり性ですから、肩こりがどうしようもなくなると、痛みがともなってくることは昔からよくありました。肩こりは自分の体の一部だと思い込んでいるようなところがありますからね。
中川 お嬢さんが、これは普通の肩こりではないと思って、東大病院の受診を強くすすめたことが、がんの発見につながったわけです。お嬢さんは鍼灸師という職業柄、養老先生の体の異変に気付きやすかったこともあったと思いますが、それ以上に、お父様に対する愛情がすごく強かったのではないでしょうか。
Profile
養老孟司(ようろう・たけし)
1937(昭和12)年、神奈川県鎌倉生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。'89(平成元)年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。新潮新書『バカの壁』が大ヒット、460万部超えのベストセラーとなる。また新語・流行語大賞、毎日出版文化賞特別賞を受賞した。『養老先生、病院へ行く』『唯脳論』『かけがえのないもの』『手入れという思想』『人生の壁』『まる ありがとう』『ものがわかるということ』など著書多数。
中川恵一(なかがわ・けいいち)
1960年(昭和35)年、東京都月島生まれ。東京大学医学部医学科卒業後、同大学医学部放射線医学教室入局。社会保険中央総合病院放射線科、東京大学医学部放射線医学教室助手、専任講師、准教授を経て、現在、東京大学大学院医学系研究科 特任教授。2003年~2014年、東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。共・著書に『医者にがんと言われたら最初に読む本』『養老先生、病院へ行く』『人生を変える健康学がんを学んで元気に100歳』など多数。
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病気と折り合う芸がいる
養老孟司著・中川恵一著
エクスナレッジ刊
がん再発後の治療経過と、病気と折り合いをつけながら、淡々と日々を過ごす養老先生が、生と死について、また子どものこと、虫のこと、ネコのこと、自然のことなど多様なテーマについて語りつくす。
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