多良久美子さん・81歳。息子は重度知的障がい、娘は早逝「心配事を一つずつ取り除けば残るのは楽しいことだけ」【後編】
私が世を去っても息子のことは心配ない
46歳という早すぎる死だが、「娘の人生は、短いけれど太かった。生き切った娘を誇りに思っています」と多良さんは前を向く。親としての苦しさは想像にかたくないが、多良さんの言葉に人生への絶望はない。
「人生、いいときもあれば悪いときもある。だからこそ、いいときには十分にその時間を楽しんで、味わっていけたらと思っています」
多良さんにとってその「いいとき」は、まさに今だ。
「80歳を前に、社協から受けていた仕事から引退させてもらいました。長年続けていた『親の会』の仕事も若い人に委ね、相談役の立場になっています。ようやく自分のための自由な時間が手に入りました」
障がいのある長男は今施設で暮らし、土日だけ家に戻ってくる。
「言葉は話しませんけれど、息子がいるだけで家が明るくなります。週末が楽しみなんですよ」
息子が暮らす施設は、多良さんたち「親の会」が自治体に申請し続けてようやくできた施設だ。親が亡くなった後でも、障がいがあっても、安心して暮らし続けられる環境を整えることができた。そして「まだ早いかな」と思いつつも、息子には成年後見人をつけている。
「息子の障害年金は、息子名義の口座に貯めているので、まとまった額になっています。それを後見人の方に委ねています。お金や手続きのことは後見人さんにお任せしていて、私はノータッチ。息子を残していくことへの不安はありません」
『ゆうゆう』2024年12月号
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