完全に〝ジャムおじさん〟だ!見た目もどこかそれっぽい。アレンジの巧妙さが楽しみ 朝ドラ【あんぱん】スタート
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。漫画家のやなせたかしさんと妻の小松暢さんをモデルに、激動の時代を生き抜く夫婦の姿を描く物語「あんぱん」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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NHK連続テレビ小説第112作『あんぱん』の放送がスタートした。多くの人に愛される国民的アニメ『アンパンマン』の原作者である漫画家・やなせたかしと、その妻・小松暢をモデルとした作品で、やなせをモデルとした嵩を北村匠海が、その妻・のぶを、今田美桜が演じる。脚本は『花子とアン』やNHK大河ドラマ『西郷どん』などの中園ミホが担当する。
第1週「人間なんてさみしいね」は、人間の顔をした、のちのアンパンマンの前身となる短編作品のアニメーションからスタートする。1作目の絵本の絵が登場するなども、それだけでワクワクする。そこに登場し、やわらかな光に包まれ、幸せそうな空気をまとう(おそらく)晩年ののぶと嵩。みんなが大好きな『アンパンマン』と、やなせ先生の世界のイメージそのままに、これから始まるストーリーがそこに連れていってくれるんだということを感じさせてくれる、多幸感あふれる導入だ。
国民的アニメとその作者がモデルとなり、その妻がヒロインというと、2010年上期に放送された第82作『ゲゲゲの女房』のことを思い出す人は多いのではないだろうか。生み出した作品、そしてキャラクターが多くの人に知られているということは強みだ。どうやって漫画や絵本を描くようになり、どうやってあの『アンパンマン』が生まれたのかといった、ブレることの一切ない縦軸があることで、そこにどうヒロインがからんでいくのかと、見る側の視点にも安心感が生まれることは大きい。
『アンパンマン』の世界を感じさせてくれる要素は早くも第2話で登場する。序盤の舞台となる高知・御免与にふらりと降り立ち、「本場仕込み」というパンを焼き販売する屋村草吉(阿部サダヲ)。そのおいしさにのぶは感激するわけだが、パンへの興味だけでなく、名前をめぐるやりとりも話題を集めた。
「ヤムおんちゃんかえ」
「ヤムおんちゃんじゃなくて、屋村だ」
そう、この響きは完全に〝ジャムおじさん〟だ。見た目もどこかそれっぽい気もする。それでいて、子供相手にも容赦ない距離感で「俺様」といばるようなキャラクターは、どこか〝ばいきんまん〟を彷彿させるようでもある。ちなみに、江口のりこ演ずる、のぶの母の名前は〝羽多子〟。放送後の『あさイチ』でもその話題が出ていたが、間違いなく〝バタ子さん〟だ。
実際にキャラクターのモデルが存在したかどうかはおそらく問題ではない。史実をもとにした、アレンジの巧妙さ、「ヤムおんちゃん」のような分かりやすいが細かな仕掛け、そういったもののバランスこそがドラマの世界を楽しませてくれる重要な要素のひとつであろう。
「なんのために生まれてきたがやろう」
さて、サブタイトルの「さみしい」とは、第1週でどう描かれたのか。ヒロイン・のぶは、土佐言葉で男勝りの女性を指す「ハチキン」で、男子とも対等以上に渡り歩くキャラクターだ。東京からやってきて上品で繊細そうな少年期の嵩が男子生徒に、当時としては相当豪華でハイカラであったであろうお弁当のおかずを奪われたりする様子を見て、「おまんら、また卑怯なことして」と下駄で殴りかかるようなハチキンぶりをみせてくれる。それでいて、「君は乱暴なところもあるけど優しい人なんですね」と、その本質を見抜かれていそうなところもある種の定番かもしれないが、安心感あるやりとりだ。
ちなみに、このお弁当を、朝食をとってないだろうからと嵩が与えるところも、「アンパンマン」の精神そのものである。名前とパンという表面的な要素だけでなくアンパンマン、やなせたかしの世界を届けてくれる部分は、この先も大きな期待がもてるところだ。
少年嵩は、優等生的雰囲気のなかに、どこか「さみしさ」を感じさせる。母の登美子(松嶋菜々子)に連れられ、高知の伯父、寛(竹野内豊)のもとにやって来た大きなきっかけはのも、父親の清(二宮和也)を亡くしたことだ。父との別れ。そして、ほどなくして登美子は嵩に見送られて出かけたまま手紙を残して姿を消してしまう。
まだ幼いといっていい尋常小学生の嵩にとって、大好きであたたかな記憶を持つ(東京でのそのような記憶を描く絵も印象的に使われている)大切な両親との時間。それが東京での暮らしとともに両方失われてしまった。それは「さみしさ」以外のなにものでもないだろう。「お前もこの街に居場所がないんだな」「おじさんも?」という、屋村とのやりとりも、印象的だ。
しかし、そんな寛に、
「うちが守るって約束したがや」
と宣言するのが、のぶだ。ハチキンでありながらも母性のような優しさもそこには存在するのだろう。この先のふたりがどう親しさを深めていくのかわからないが、のぶに惹かれていく様子がどう描かれていくのか、楽しみな要素のひとつである。
しかし、そんなのぶはのぶで、深い「さみしさ」に包まれることとなる。かねて体調を不安視されていたのぶの父・結太郎(加瀬亮)が、出張先から帰る船上で心臓発作により亡くなってしまう。寛の両親、のぶの父……最も大切で愛すべき存在の欠落は、子供にとって一番大きな「さみしさ」である。
「人間なんてさみしいね」このどこか達観したかのようなスタンスは、やなせたかしが1976年に発表した詩集『人間なんてさびしいね』をもとにしたものと思われるが、やなせたかしのこの人生観、死生観が根底にしっかりと敷かれたうえでの作品づくりがこの先も行われていくであろうことは、なんともたのもしい。
「なんのために生まれてきたがやろう」
まるで『アンパンマン』の曲のフレーズのような結太郎の母の言葉、そして息子の名前を自らの手で墓跡に刻む結太郎の父・釜次(吉田鋼太郎)の姿も胸に刺さる。「人間とは何か」「生まれるとは、生きるとは何か」。第1週から大きなテーマを投げかけてくる。自らを「フーテン」と称するヤムおんちゃんの「たった1人で生まれてきてたった1人で死んでいく、人間なんてそんなもんだ」の言葉も、やなせたかしそのものだ。
嵩とのぶ、それぞれに訪れた欠落というさみしさを、どこかアンパンマンが自身の顔を与えるかのように、補完し合っていく。大切な存在となっていく。この「ギッコンバッタン」も、やなせたかしが発表した「シーソー」という詩をもとにしたものと思われるが、「ギッコンバッタン」は水平になることはないが、バランスを取り合いながら支え合っていくということを表現するところも見事な演出だ。
何のために生まれて、何のために生きるのか。アニメ『アンパンマン』の主題歌・挿入歌が何度も頭の中に流れる第1週だった。
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