【おむすび】「人生初のスランプ」という意外と大変なことになっていた翔也(佐野勇斗)。どのように覚醒するか?
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。平成青春グラフィティ「おむすび」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
おむすび第9週
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結は「テンプレ的朝ドラヒロイン像」
橋本環奈主演のNHK連続テレビ小説『おむすび』第10週「人それぞれでよか」が放送された。
「結ってさぁ、名前の通りだよね」
ヒロイン結の姉・歩(仲里依紗)は、ものすごく清々しい笑顔で振り返りながら両親にそう言い、こう続けた。
「人と人とを結びつける」
であると。
ドラマのタイトルそのままに、さまざまな人と人を「むすび」つけていく。これがこのドラマのメインテーマであることは、誰もが分かっていることだろう。これまでも、博多のギャルサー、父・聖人(北村有起哉)と歩との確執、栄養士を目指すため神戸に出てきてからの「J班」の面々がワンチームになるまでなどなど、これまで結が奮闘し、「人と人を結びつけ」てきてくれたことで、なんとなくそれぞれの溝は埋まりみんな仲間のようになってきた。
これまで本コラムでも触れてきたが、ヒロイン米田結は、実にいわゆる「朝ドラ的」なヒロインである。ヒロインが困難に立ち向かうことで問題をクリア「さすがヒロイン」「ヒロインのおかげ」という、近年はある意味いじられるテンプレ感を堂々と歩んでいるのが結、といった印象を受ける。
これは第1話で海に落ちた子供の帽子を拾うため後先考えず海に飛び込み「うちは朝ドラヒロインか?」とセルフツッコミを入れていたことからも、結は「テンプレ的朝ドラヒロイン像」が投影されたヒロインとして生み出されたキャラクターなのかもしれない(もしそうであれば、時々セルフツッコミを入れてくれればさらに楽しめそうだが)。
その週ごとに(あるいは数週単位で)発生する「溝」というクエストを解決していくヒロイン結の成長譚としての視点でいけば、今週のクエストは前週からの積み残しのようでもあった靴職人の「ナベさん」こと渡辺(緒方直人)の一人娘で歩の親友でもあった真紀(大島美優)を震災で失った深い悲しみからの克服だった。
このドラマのストーリー上、そしてメインの登場人物の面々の人生において、現時点で最も重要な出来事として位置づけられるのが、平成7(1995)年1月17日に発生した阪神・淡路大震災だ。震災によって真紀はこの世を去り、米田家は福岡・糸島に移住することになる。渡辺をのぞく神戸の商店街の面々はその後たくましく復興し、笑顔で日々を送る。ここで発動されるのが「米田家の呪い」だ。
「好きなことするのがギャル」と並び、このドラマの重要キーワードとして時折登場する「米田家の呪い」。これは、困っている人がいれば、後先考えずに体が動いてしまうという、祖父・永吉からの米田家の性質を指すものだが(血筋を引いていない母などは、すぐ動かず少し離れて見守るという立場になっているわけだ)、第1話の帽子のエピソードをはじめ、結の時に相手にうざがられたりする「テンプレ的朝ドラヒロインぽさ」は、この「呪い」に起因することが多い。
今週のナベさんの喪失感を救うために、結以上に聖人と歩が「呪い」を発動させる。不器用ながらもナベさんの心を開いてもらおうと、自分が初給料で買ったという思い出の靴を修繕してもらう聖人。その仕上がりを見て大興奮する米田姉妹だが、「ギャルに絶対売れますよ!」と、どう見ても靴職人としてナベさんが手がける靴とは違うような甘くデコったラフスケッチを手に押しかけたり、請け負うとは一言も言っていないのに頼まれてもいない古靴を大量に「ナベさんのために」と歩が調達してきたり……。
一家でロックオンされて気持ちを乱されるという意味では、これが「米田家の呪い」なのかもしれない(ちなみに前週の「地獄のお好み焼きパーティー」で一家揃って出迎えられた翔也(佐野勇斗)もまた、一家ごとロックオンされたともいえる)。