2つの震災を「結ぶ」形になった【おむすび】 残念でたまらないと感じた描写と期待したいこと
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。平成青春グラフィティ「おむすび」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
▼おむすび第14週▼
>>「レディース」と「スケバン」の対立構造って何なん?【おむすび】結(橋本環奈)と翔也(佐野勇斗)の結婚で後半戦スタート阪神・淡路大震災の週に東日本大震災を描くこと
2025年1月17日。阪神・淡路大震災からちょうど30年という節目を迎えた日。神戸を舞台に展開する橋本環奈主演のNHK連続テレビ小説『おむすび』のこの日の放送回でもそこに合わせ、被災者への祈りを捧げる場面が挿入された。
「くしくも」という言い方は適切ではないかもしれないが、この第15週「これがうちの生きる道」では2011年3月11日に発生した東日本大震災の発生が描かれ、放送時期によって2つの震災を「結ぶ」ようなかたちとなった。
しかし、だ。この阪神・淡路大震災の週に東日本大震災を描くこと、内容うんぬんよりも、そこを「エモくない?」と考えたような、意図のほうを感じてしまったのは仕方ないことなのだろうか。
ヒロインを含め、このドラマの主な登場人物は、95年に神戸で阪神・淡路大震災に被災した人が多く、大切な家族や友人を失ったり、心の傷となっている人も多い。ドラマを通して30年目の節目にあらためて向き合う、そこは素晴らしいことだと思う。
それだけに、大津波と原発事故という想像をはるかに超える事態が発生した東日本大震災が、どこか登場人物の95年のトラウマを呼び起こさせるため、「栄養士」という職業を見つめ直すための装置のような薄い扱いになっていたように見えたことは残念でたまらない(ちなみに原発事故とその余波については現時点では全く描かれていない)。
アムラーやコギャルの平成初期世代のほうが
このドラマの大きなテーマは、「平成」という時代をまるごと描くというものがあったのだろう。平成にどんな出来事や流行があったのかを思い出したりググったりしてみる。二つの大震災、ギャルブーム、冬ソナブーム、リーマンショック、ブログとSNS……ほかにも地下鉄サリン事件、Jリーグ、ポケモン、エヴァ、たまごっち、アベノミクス……さまざま思い出されることはあるが、極端にいえば「震災とギャル」、これが大きな柱となり、名前だけのヨン様や結の母・愛子のブログなど使いやすいものを取り入れつつ、食についての意識を栄養士という職業によってテーマ性をもたらせる。そしてそれを「おむすび」という言葉で「結び」つけていくという組み立て方だったのかもしれない。
それはもちろん素晴らしい姿勢かもしれないが、多くの人の命が失われた震災を描くからには、やはりドラマのストーリーのための「道具」のような扱いと感じさせない向き合い方をしてもらいたかったところだ。
そもそもギャル文化を描くなら、アムラーやコギャルの平成初期世代のほうが自然だっただろうが(伝説のギャル・姉の歩<仲里依紗>にしたって、その後のパラパラ世代のギャルである)、そうなると震災の軸と結びつけにくくなってしまう。
それゆえに伝統を受け継ぐ博多のギャルサーたち(ハギャレン)という女子たちが登場し(その設定自体はいいと思うが)、結がそこに巻き込まれ、やがていっぱしのギャルとなり、のちに「ギャルなめんな!」という名言(迷言?)を発するほどにまでなるわけではあるが。とはいえギャル的なものを継承しているのは歩と友人のチャンミカ(松井玲奈)、元ハギャレンのルーリー(みりちゃむ)たちで、結はギャルギャル言うわりにほぼギャル的な視点で物事を切り取っていないように感じられる。
結の阪神・淡路大震災の記憶も「あまり覚えておらんけん」と言ってみたり、「あのときは大変だった」と言ってみたりといったブレがあるし(幼少期の記憶としては、曖昧なのはある意味リアルなのかもしれないが)、少なくともヒロインが思い出す震災の記憶として何度も描かれるのは、震災の被害などではなく避難所におむすびを届けてくれた女性に、「冷たいからチンして」と心ない発言をしたことへの反省だけである。