北村有起哉の名演技が光る【おむすび】「結ちゃんすごい」がもはやほほえましく感じられるようになってきた
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田幸和歌子
1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。平成青春グラフィティ「おむすび」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください
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『あさイチ』の朝ドラ受けで花丸大吉に「まさかワインリストがある店だとは」といじられていたシーンとは?【おむすび】こっそり検査するなら、なぜわざわざ娘の病院を……
管理栄養士編に突入してからの橋本環奈主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『おむすび』は、 “家族”というもののありかたを提示するターンが並行して描かれている。
前週はいわゆる社会人経験のない母の愛子(麻生久美子)が、ブログの書籍化をめぐる打ち合わせなどを通してちょっとした冒険を経験して、歩(仲里依紗)と結(橋本環奈)、ふたりの娘の前で素直な気持ちを打ち明けたことで、最も近いが実は距離もあったりする“家族”特有の距離感を描き出してくれた。
第20週「生きるって何なん」では、父・聖人(北村有起哉)の体調を大きな柱としてストーリーが構成された。
胃に違和感をおぼえる聖人。最初は一人で思い悩み(理容店を掃除しながら心の声が漏れて翔也(佐野勇斗)に心配されるというほっこりお笑いシーンもあり)、結のつとめる病院で、娘の有休日にこっそり検査を受ける(こっそりしたいなら、なぜわざわざ娘の病院を選ぶのか、というそもそもの疑問は置いておくが)。
検査の結果、聖人はステージ2の胃がんと判明する。入院と手術をすることになり、結も栄養面で担当することになる。この聖人の病気と手術を通じて、米田家の血縁ある4人(翔也は別枠か)の、家族としてのかけがえない絆のようなものが大きく強まった。
多くの家族は、時間や成長とともに、それぞれの道を歩いていくものだと思う。しかし、やはり故郷も含めて「家」というものは一番強い絆、関係性であることには変わりない。日々の時間を過ごすうちについつい忘れてしまうそんな基本的なこと、家族愛というものを。聖人のがんをきっかけに視聴者にも届けてくれたのではないだろうか。
がんの切除手術前、聖人は元気になったら叶えたい夢を、「糸島に行きたい」と少し照れくさそうにつぶやいた。一瞬、え、そんな一大決心するほど帰ってないの!? と思ったが、翔也や孫の花(宮崎莉里沙)も連れて、みんな一緒に行ってみたいというセリフが続いてちょっと安心、それはとても幸せなことで、いつか叶うという気持ちにさせられた。
病気を通じてあらためて家族への思いを確認した聖人は、麻酔が醒めたあと、家族の名前をつぶやいていたという。
「結ちゃんすごい」「結ちゃんのおかげ」をきっちりこなして
家族の絆や愛を確認する米田家の面々は、いっぽうで管理栄養士として立派に成長した結の姿に、
「結が病院で働いている姿、初めて見たけど」(翔也)
「結ががんばって働いてる姿にも感動したし」(愛子)
と感慨深そうで、職場参観のような雰囲気をかもし出しつつ、このところ毎週何回か盛り込まなければいけないクエストなんだろうかというように出てくる、朝ドラヒロインアゲテンプレの、「結ちゃんすごい」「結ちゃんのおかげ」をきっちりこなしていたことも、もはやほほえましく感じられるようになってきたのは、回数重ねて麻痺してきたのかこちらが慣れたのか。
この「結ちゃんすごい」は、聖人の退院を祝う、家族での食事会でもさらに塗り重ねられるように発揮されていた。
がんという、生命に関わることもある病に向き合うことでの不安な気持ちに、寄り添うようにいてくれたことで、
「他の患者さんにもこうやってしっかり向き合っとるんやろうなって、感心しとった」
という聖人。
「すごいじゃん、結!」
と盛り上げる歩に対しても、
「気持ちが明るくなるような服、真剣に選んでくれて」
と、二人の娘の頼もしい成長を、感慨深げに振り返る。